短編集

□真夏のサウダーボーイ
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真夏のサウダーボーイ


「土砂降りに濡れるラブソティー」ヴィラル視点




7月終盤。
暦によると現在は夏。

オレには夏というよりも常夏に感じられる。
梅雨はどこにいった?あの季節独特のジメジメ感はいただけないが、このまま水気なく本格的猛暑に突入したらヤバい。
空気どころか本当に人体まで水分が無くなる事態に陥るかもしれない。


「んなアホな事態に陥ってたまるか。つか、暑いならエアコンつければいいだろ?」


こんなカンカン照りの日に暇なのか、カミナは同じく暇なオレの携帯に電話してきた。
灼熱地獄のせいか、心なしか携帯が熱く感じる。


「ヤバいアツいヤバいアツいヤバいヤバいヤバい」
「そーとー、追い込まれてるな…」


今からこれじゃホントの夏まで思いやられるぜ。
カミナがそんな感じのことを言いながら、立ち上がって何処かへ向かっている音が手元の機械から聞こえてきた。
呆れてしまったか…。
今の俺は自分でもだらしなく思うから、呆れられても仕方ないかもしれない。
カミナに見捨てられた独りぼっちの俺はどうしたらいいんだ。
なんだかわからないが、急に、息苦しくなってきた。
脳が、体が、心が、全てが溶けて無くなってしまいたい。もう、疲れた。


「ッ!ヴィラル!?」


なんだ、五月蝿い。
俺はもう眠りたいといっているんだから、安らかに寝させてくれ!


「オイ、ヴィラル起きろ!ヴィラル!」


さっきまで無機質な物越しで聞こえていた音が、すぐ傍から聞こえる。
聞き慣れた、耳に馴染んだテノールの声が頭に響いてくる。

もっと呼んでくれ。
もっと。


「…も、っと」
「ヴィラル、しっかりしろヴィラル!」


暫くの間、開けることを忘れていたかのようにゆっくりと目を開ける。
光と共に視界に飛び込んできた男の顔を無感動にジッと見つめてみる。


「カ、ミナ」
「ったく!なんでこんなになるまでほっといたんだ」


また呆れられた。


「そんなに言うんだったら、…オレなんか相手にしないで何処へでも行けばいいだろう」


何でこんな憎まれ口しか言えないんだ。


「ちげーよ、今の言葉は俺にだ。
こんな今にもポックリ逝っちまいそーな危なっかしい奴をほったらかして行けるか!」
「ぽっくり…」
「んなとこに食いつくな!!」
「ほっといてくれ」
「っテメ〜…それ以上、余計なことその口から出そうもんなら」
「出そうもんなら何だって、
…っ!!?」
「ッハ、ビックリしただろ?」
「…冷たい」
「ただのブロック氷だが、今のテメーにはこれで十分サプライズだろ」


時には暑苦しいと思う場面もある。
けれどいくら熱いだなんだ言っても、傍らにはこいつの体温が必要なんだと気づかされる。





(シロップはないのか)
(ンな暇ねーよ!)
(気を利かせてアイスの一つでも買ってきたらどーなんだ、まったく気が利かない奴だな)
(エアコンぶっ壊れてんじゃねーかよ!)
(それを思い出させるな!!)

20090801


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