学園集

□金朱雀の嘆きを知る者はもういない
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金朱雀の嘆きを知る者はもういない






「あ?おい、どーしたよ?」
「……」


黙々と自分の荷物を手早くまとめるヴィラル。
自らの身支度を済ませ、掴んだ部活バックを素早く持ち主であるカミナに投げ渡し、図書室を足早に後にする。
きっと彼の気持ちが周囲にも伝わったのだろうか。
その時、ヴィラルは背中に感じた無数の視線に敢えて気付かない振りをした。
いきなりのことに驚きつつも慌ててヴィラルの後ろ姿を追うカミナに対し、ヴィラルは追ってくる気配に何故かほっとした。


「?…この安堵感は何だ…?」
「おーい!!置いてくなんてひでぇだろうが」


直ぐ後ろから聞こえた声に振り返り、追いかけてきたカミナをじーっと見つめる。


「おっと、なんだよ?俺に何か付いてるか?」


先程から気持ちの中に引っかかるものはあるが、カミナ自身に別に何も可笑しなところも見ている理由も無いので、ヴィラルはこれを無視して自ら話題をふった。


「さっきの話しの続きだが…」


兎も角、今は先程のノートの理由を聞くべく、カミナに先を促すよう視線を向けた。


「お前、この前の生物の移動教室が終わった後に直ぐに実験室から出てっただろ」
「…あぁ」
「そん時、お前の座ってた席にノートが置いてあってよ。んだから、ついでに俺が中身を見たって訳よ!」
「……」
「安心しろ、ノートは俺様のロッカーに保管してあるぜ!」


「なるほど‥‥‥、
何故かあの後に生物のレポートを一緒にはさんだノートが消えて翌日の提出が出来ずに再作成を余儀なくされ徹夜で仕上げた結果、
当日に提出した直ぐ後に貧血で倒れ保健室に運ばれそのまま早退する羽目になり、
授業に出席出来ず悔やんでも悔やみ切れなかった全ての諸悪の根元は、
同級生でありクラスメートであり中学から腐れ縁の貴様にあると言っても過言ではない訳だな?」


「水くせぇな、俺達は親友だって♪」
「問題はそこじゃない!!」


何故、こうもこの男は自分を怒らせるのに長(た)けているのだろう。
このままこの人間に付き合っていたら、こちらの胃に穴が空くのではないかと心配になる。


「ンな怒んなよ、テメェはホントに短気な奴だなー」
「誰のせいだと思っている?」


己の人生の中で、自分本位というか勝手というか、これほどまでにお気楽な奴と出会ったことがあっただろうか。
否、ない。(反語)
ここまで来ると、もはや一種の才能であると感嘆し、それ以上に怒りを通り越して呆れにも似た感情が浮上してくる。
ヴィラルは口元をひくつかせ、瞳はどこか遠くを見つめていた。
次にカミナからどんな奇想天外な言動をされても、何故だか堪える自信があった。








(一つだけ問う…)
(あンだよ、真剣な面して)
(貴様は、俺をノイローゼにしたいのか?)
(あ?のイろぅぜってなんだ?)
(お手上げだ!)


081012


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