短編集
□その先に思いを馳せてみても悪くはない
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その先に思いを馳せてみても悪くはない
ヴィラル独り語り
何よりも尊い存在であった螺旋王を失い、宛もなくただ尽きることを忘れた体と命を持て余している日々。
失いたくないと想っていたものをあっさり奪われ、知りたくないと目を瞑っていたことが姿を表していまった。
生きるとは、こういうことなのだろうか。
テッペリン崩壊後、俺はその間、人間共が続々と地上へ這い出てくる様子をただただ黙って観ていた。
否、観ていることしかできなかった。
ある日のこと、自分達が如何に知能的で行動力があり実現性に長けているか、一人の人間を大勢に囲まれて説いている場面を目撃したことがある。
男は、空に高々と手を挙げ、力一杯の演説を始めた。
―――この広い空も、澄み渡る水も、豊かな土も、美しい海も、雄大な森も
地上のもの総てが我等のものとなった日を忘れてはならない!
この勝利は、数多の苦難を乗り越えた彼等の勇士あったからこそである。
今、我等はこの地に永住を誓う!
それは未来永劫決してネジ巻けることのないただ一つの真実となる!!!―――
嗚呼、そうだ。
奴等にも護るべきものがあり、遺すものがあるのだ。
そんな当たり前のことを大声で懸命に訴えかけているあの男を、ほんの一瞬だが羨ましいと思った。
そして、その訴えに懸命に耳を傾けている大衆の背中に僅かな希望の光が射している気がした。
ならば、命懸けで守ろうとする意志を見届けてみるのも悪くはない。
俺はその意志を貫き通し拳を交えた人間を知っている。
尊き方から授かったこの命の重みを、語り部として存分に全うする―――
それが、俺の意志。
080325