補佐官とヴィラル







「お正月には"ハツモーデ"に行くのか?」


大晦日と言うことで、今日は今まで以上に忙しなく働いていた僕に、彼は唐突に疑問を投げ掛けてきた。


「は?」
「む、違うのか?」
「合っています。ですが初詣だなんて突然どうしたんですか?」


不躾だと思うが、質問に質問で返す。

彼は時たまこうして新しく覚えた言葉や知識などを使って問い掛けてくることがある。
この前は、『サンタさんへの願い事は済ませたか?』と聞かれて思わず『いや…まだ』と精一杯の言葉を洩らした時、彼の"ちんたらしてる奴だな"的な表情には心底嫌になった。

また今更だが、彼がサンタにまさか"さん"と付けて呼んでいたことに些か驚いた。
そう考えれば、あれはあれで貴重な体験になったと思う。


「廊下を歩いている時にシモンに会った。その時、奴に『お前はハツモーデに行くのか?』と聞かれた。
お前はハツモーデに行くのか?」
「あぁ、なるほど」


これで合点がいく。
ご丁寧に物真似までしてくれたお陰で、否が応でも現場のやりとりをありありと想像することが出来た。
この問題を作り上げた元凶はこともあろうに…否、やっぱり総司令だったか。

痺れを切らしたように彼は再度話し掛けてきた。


「行くのか行かないのか、どっちだ?」


露骨な不機嫌に目尻に皺を寄せた目の前の彼は、これからの僕の言葉を聞いたらどう反応してくれるだろうか。


「行きませんよ」
「ッ!」


本当に分かり易い。

最初は期待に胸膨らませてハシャいでいたと思ったら、次は"待て"をくらったように目を鋭くする。
まるで、と言うよりはまさに犬のようだと思う。

「…どう、してだ」


そして今やあからさまに悄気てしまった。
最早ここまでくると耳や尻尾の垂れている幻覚まで見えそうだ。

いつもとは違うしおらしいヴィラルの様子に、つい頬が緩む。
けれど、僕は口元をキュッと引き締め、追い討ちを駈けるように言葉を続けた。






Spin On!



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ