『足枷ネフロレビス』

□第一幕
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 エギンハルト国は、地表の約半分を占めるイェーツ大陸の極西に位置する小国である。ワインの原料となる葡萄を国外への主な輸出品とし、その他には、比較的温暖な地域であるため家畜がよく育つので、食肉や牛乳などの酪農業も他国との貿易を支えていた。経済的には、まずまずの豊かさだ。
 ここ数十年は、他国間での目立った競り合いもなく、エギンハルトはわりと暮らしやすい部類に入る国だった。

――平和な国。平和な人々。
 だが無論、皆が皆、穏やかにのうのうと暮らしている訳ではない。
 誰が悪いという訳ではない。
 悪いのは――あえて「それ」を悪と見なすのならば――温い湯に浸りこむようにこの国がつかっている、それは「平和」そのものである。
 もし、この国が決して穏やかではなかったのなら。
 あるいは「彼女」が――正しくは「彼女たち」が――血を吐きながら泥の河を這い渡っていくような心地を味わうのを、少しでも和らげることができたかも知れない。


 
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