小さな魔王シリーズ
□小さな魔王と孤高の剣士<前編>
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昔々。
ある世界に一人の魔王がいました。
その魔王はたくさんの酷い行いをして、人々を苦しめていました。
ここでは書けないほど残忍で、血も涙もない悪さばかりをしていました。
しかしある日を境に、魔王は暴れることをぴたりとやめてしまいます。
力を封じられたからだとか、人間の女性に恋をしたからだとか。
色んな逸話ができましたが、どれが本当かは誰にも分かりません。
とにかく魔王は大人しくなり、手下の魔物たちと魔王城周辺を拠点としてひきこもってしまいました。
人々はちょっとだけ喜びましたが、魔王がいなくなったわけではないので、やはりまだ心配です。
魔王のいる地域を立ち入り禁止にして、見張ることにしました。
たまに思い出したように魔物たちは監視地区から出てうろうろしましたので、人の国同士で戦う余裕はありませんでした。
それから何百年と経ちました。
相変わらず人は魔王を見張り、魔王はのんびりと暮らしていました。
たまに人の間で争いが起きましたが、魔物がいつもいつも乱入してくるために、追い払うので手いっぱいになります。
あらゆる意味で不毛すぎて、人々はあんまり戦争を起こしたがりません。
魔王の目的は、まだ誰にも分かりません。
ですが、魔王が昔暴れていたことは事実です。
人々はもはや伝説となった魔王の悪行に、いまだに怯え続けているのでした。
これまでに何人もの勇敢な戦士たちが魔王を討つため、立ち入り禁止の地域に足を踏み入れました。
ですが、入り口付近で魔王の手下にやられてしまい、戦意を無くして戻ってくるのがほとんどでした。
魔王の姿を見た者は、一人もいません。
恐らく殺されたのだろうという噂が広まり、魔王の悪名は無限に高まるのでした。
舞台は、ある意味平和で殺伐としていて不可思議な、そんな世界とそんな時代。
魔王を討つべく立ち上がった、一人の剣士がいました。
それは異常なほどの使命感に瞳を燃やす、血気盛んな若者でした。
「待ってな魔王!お前を倒すのはこの俺だ!」
城があるはずの方角に、彼は意気揚々と叫びます。
魔物が溢れる魔王特別監視区域に、無謀にも一人で挑む彼は何なのか――
ほんのちょっとだけ、小さな誰かが興味を持って。
彼と彼女と魔王の物語が、こうして平和に始まりました。
【小さな魔王と孤高の剣士】