宝物庫

□歩人様より短編小説
1ページ/1ページ

作者:歩人様


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

いつものように食堂へ行けば、いつものように平々凡々な―――しかし自分にとってはかわいくてたまらない少女が出迎えてくれる。
そう期待して扉を開けたのだが、目に入った光景にワイザーは思わず眉間にシワを寄せた。

「なんだこれは」

食堂には先客がいた。
いや、先客がいること自体に問題はないのだが、
ぐるりと食堂を見渡してみても、自分の玩具、もとい妹の姿はどこにもなかった。
存在するのは、アルハインと、毛玉、もとい自分の兄。
その二人が、テーブルに散乱している雑誌をつまらなさそうにパラパラとめくっていた。

「おや、来やがりましたね」

仲間が増えた、と言わんばかりに、アルハインの表情が若干明るくなる。
ロォもまた、嬉しそうにワイザーに手招きをした。

「トアちゃんとマリアちゃん出かけててん、暇やったんよー」

あれがいないのなら用は無い。
そう言って踵を返そうとしたのだが、二人に宥められて無理やり椅子へと腰掛けさせられた。
話を聞くに、二人はトアに留守番を頼まれたものの手持ち無沙汰だったらしい。

「なんだこれは」

テーブルに視線を落としたワイザーは、先程と同じセリフをもう一度吐く。
散らばった雑誌には、女子力アップだとか森ガールだとか、何語なのか見当もつかない単語が羅列していた。

「ファッション雑誌のようですよ。庶民はこのような低俗な雑誌を参考に貧相な衣服を購入するようです」

パラパラとページを捲っては、奇抜な服が載っているページに目を留めてアルハインは眉をひそめる。
恐らくトアがその服を着ている姿を想像しているのだろう。
こんなもので勉強せずとも兄ちゃんが服くらい見繕ってやるのにと、
本人が聞いたらありがた迷惑に感じそうな思考をワイザーは張り巡らせた。

「でもこれ読んでみたらけっこう面白いんよ。ファッション以外のことも載っとるし」

ロォに促されてワイザーも目を通してみると、確かに恋愛関係の特集記事もいくつか掲載されていた。
くだらん、と一蹴しようとしたワイザーだったが、「童貞男子をどう思う!?」というアンケート記事に目を奪われる。

「ほほう」

アルハインが怪しい笑みを浮かべたものだから、ワイザーの心臓が大きく跳ねた。冷や汗がこめかみを伝う。
しかし彼に視線を移すと、違う雑誌を熱心に読んでいてワイザーの方は見ていなかった。

「面白い記事を見つけましたよ」

にやにやという擬音が最高に似合う笑みを浮かべながら、アルハインはワイザーとロォを交互にチラリと見る。

「なんや。何か言いたそうやね。どんな記事なん?」

自分が今読んでいたような記事だったら泣く。泣くしかない。
そんな危機感から、元来寡黙気味なのにも関わらずさらに口数が少なくなっているワイザーに対し、ロォは興味津々に身を乗り出した。

「こんな男はドン引き!ランキングというものなのですが」

ワイザーの背中を、滝のように汗が流れる。
やっぱり何か?童貞は気持ち悪いのか!?と、別に童貞がランクインしていると言われたわけでもないのに、ワイザーは自暴自棄になりかけた。

「それやったらオレが落ち込むような記事やないやん。中身読んでーな」

腹が立つくらいに自信満々な兄に、人生で何度目かしれない本気の殺意が芽生えるが、
彼の場合根拠のない自信ではないので自粛する。

「色々な項目がランクインしているのですがまあ諸々は置いておいて、問題はこれの一位がですね……」

「ただいまー!」

アルハインが記事を読み上げようとしたところで、待ち人が帰ってきた。
手にはカラフルな紙袋が下がっていて、幸せそうな笑みを浮かべている。
出かけている間に増えていたワイザーに挨拶を交わして、トアはアルハインの持つ雑誌を覗きこんだ。

「暇やったからトアちゃんの雑誌読んでたんよ」

ロォの声が聞こえたのか聞こえなかったのか、
アルハインの持っている雑誌に目を落としたままトアは固まってしまった。
かと思えば、ゆっくりと視線をワイザーへ投げかけてくる。白い目で。

「あー……」

なんだなんだ。何なんだその目は。

やっぱり童貞キモイとか書かれているのだろうか。
ワイザーが自虐的になって一人で落ち込んでいると、トアの横からマリアも雑誌に視線を落とす。そして。

「あー……」

トアと同じ反応で、見た。しかし今度はワイザーではなく、ロォを。
ワイザーとロォが事態を把握できずに困惑していると、アルハインが大きく咳払いをする。

「実はこのランキングの一位……マザコンなのですよ!」

してやったりな表情のアルハインを、ワイザーとロォは茫然と見つめる。
そして、おもむろにため息を吐いた。

「なんだ、そんなことか」

「そんなこと?!」

ワイザーの安堵した様子に、三人は思わず声を張り上げる。
しかし何が問題なのかもわからないらしい彼は、三人の様子に首を捻っていた。

「まさか私がマザコンだとでもいうのか?馬鹿馬鹿しい。この兄ならまだしも、私はごく正常に一人の息子として母上をお慕い申し上げているだけだというのに」

唾でも吐き捨てかねないくらいの軽蔑の眼差しを弟に向けられ、今度はロォが非難の声を上げる。

「えー?それやったらオレかてマザコンちゃうよ。マザコンとかやないねん、オレの愛は。オレのお袋に対する愛を平凡なカタカナ四文字で表さないでほしいっちゅーか?なんて言えばいいのかわからんけど、とにかく愛?LOVE?お袋の全てが愛しいねん、オレは。結婚してもいいっちゅーか、結婚したい!してください!!ああお袋かわいいよお袋!!オレはお袋が欲し」

「黙れ!!」

テーブルを軽々と飛び越えたワイザーの飛び蹴りが炸裂して、そのまま二人は派手な喧嘩へともつれこむ。
世間一般の女子と同じようにマザコン二人にドン引きする三人は、重い重いため息を吐いた。

「私、彼らを甘く見ていましたわ」

「まさか自覚がないとはね……」

結局マザコン二人の喧嘩は夕方まで続き、このままでは埒があかないと判断したアルハインの入れ知恵で、
トアが「お兄ちゃんキモイ」と呟いてワイザーにダメージを与えることによって、先の見えない兄弟喧嘩を収束させることになった。



おわり。





(『なんだこの酷い話(褒め言葉)www』ととても残念に楽しませて頂きました!ありがとうございます!とりあえずこいつらしねばいい!
そんな感じで路線は固まりました!もっともっと負けずに残念な人?達にしますね!)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ