短編

□【魔王日記より抜粋】
1ページ/4ページ

霞の月一日

今日も平和だ飯が美味い。
しかし、手下から『働かずに食う飯は美味いか』と聞かれる。
我が城のシェフは一流だぞ。不味いわけがなかろうに。
……明日からちょっと本気出す。


霞の月二日

本気を出そうにも、何をすべきか分からない。
とりあえず庭の花を剪定してみた。
そろそろ薔薇が開花しそうだ。生ける花瓶も選んでおこう。
手下が柱の陰から睨んでいた。


霞の月三日

今日は部屋の大掃除をした。
たまりにたまった仕事の書類を破棄。多分時効。問題はない。
床のモップ掛けもした。
常日頃メイド達にさせていたが、かなり骨が折れた。彼女らの仕事の大変さが分かった。
手下の見る目が何だか怖い。


霞の月四日

手下がキレた。
『もっと他にすべき仕事があるでしょう!』と半泣きでキレられた。
そういえばここ百年ほど何もしていない気がする。
『すべき仕事』とは何か、これから徹夜で読書でもしながら考える。


霞の月五日

名案が思い浮かんだ。というより、先人達の知恵を借りた。
手下にその名案を告げると、嬉々として準備に向かった。
手下の言うところの、『それらしい仕事』だと認められたようだ。
しばらく私の出番は無さそうだし、楽ができていい。
魔王の先人達よ、ありがとう。


霞の月六日

おいおい。


霞の月七日

魔王らしい仕事=姫をさらう。
誘拐は手下に任せ、私は救助に来た軍隊だか勇者一行だかを魔王らしく返り討ちにすればいい。
誘拐の準備に手間取り小言を言う奴がしばらくいなくなるかと思いきや、一日で完遂してくれた。
何と優秀な手下だろう。死ねばいいのに。
姫は城の一室に監禁しているようだ。
早くも明日は一対一での対面らしい。面倒臭い。


霞の月八日

手下の間抜けぶりが笑える。
奴は影武者を掴まされてていた。
あの王家の血は特殊で、分かる者には分かるのだがなあ……。
手下はまだ知らないらしい。面白そうなので黙っておく。
しかしあの子ども、どうしよう。


霞の月九日

影武者の子どもはバレているとも知らず、姫のふりをしている。
魔王城にさらわれて、魔王が目の前にいるというのに懸命に。
幾つかと聞くと、六つだという。
この年で自分の役割を理解し、全うするとは。
気に入った。明日からもっと観察しよう。


霞の月十日

部屋に入ると、偽姫が泣いていた。
あれほど肝が冷えたのは久々だった。
とりあえず宥めるため、メイドにケーキと紅茶を持って来させた。
泣き止むのに時間はかかったが、最後はなんとか機嫌を直しケーキを食べた。
面白い。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ