魔王のおやど

□第二話
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「部下からの確かな情報だ。ところで」

言うや否や、シャロンは微笑みを浮かべたまま青年の首にそっと腕を回す。
これだけなら仲睦まじい恋人の絵なのだが、普通その場合相手の気道を圧迫しない。
ぎりぎりと締め上げられ青年が苦しそうな声を上げるが、その腕を剥がそうともせず、彼はなすがままにされている。

行き過ぎた痴話喧嘩だ。
どうせこのくらいじゃ死にはしないしと、トアは制止の声を上げようともせず、黙って青年が置いたナイフを回収した。
そしてすぐに食事の用意ができるようにと、残った芋の皮むきを始める。
夕飯をシチューに決めて正解だった。
大量に作って『アーさん』やシャロンを招くつもりだったが、客が来るならそちらに回せる。
一体何人組かは知らないがとりあえず大鍋一杯作れば足りるだろう。
余れば保存しておいて後日『アーさん』に振る舞えばいい。最近は寒いから、すぐ痛むことはないだろうし。


「いつの間に抜け出しましたアルハイン様。お部屋を見るに、まだ仕事は終わっていないようでしたが」

しゃりしゃり。平和な音が響く中、シャロンは青年の耳にその口元を寄せ囁いた。口調こそ穏やかだが、目は笑っていない。
被告人の弁論を認めたのか力を緩めたものの、いつでも絞められるようにか腕は首に絡めたままだ。

「わ、我輩はトアさん……いやいや、この人間の仕事振りを査定するためにぐええ」
「ご自分の仕事も片付けられないお方が何を仰いますやら」

青年が白眼を向いて苦悶の表情を浮かべる。対照的にシャロンの笑顔がやたらと眩しい。

ひとしきり締め上げ、仕置きを終えたと判断したのかシャロンが青年を解放した。
げほげほと咳き込む彼を放置し、姿勢を正してトアに向き直る。
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