式野物語

□第3章
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田上神社は田上山の中腹に建立されている。
一行は落ち葉が敷き詰められた山道を行く。
田上神社への道はきちんと整備されていて歩き易かった上、数人の参拝者とすれ違ったりもした。
「田上神社もそこそこ有名な神社だからな。」
陽介が自分の知識を語りはじめた。
陽介の意外な一面に感心しながら月斗は話の相槌を打った。
後ろから咲の呆れた声が聞こえた。
「何やねん、先輩ぶっちゃってー」
祇里は咲の隣で楽しそうに笑った。新調した着物が華やかに輝いていた。
…祇里の後ろで、狸が横切った気がした。

「ここが田上神社か」
月斗は境内を見渡した。
そこそこ広かったが、式野神社と比べたら物寂しい気もした。
参拝者も見当たらない。
改めて式野神社の偉大さを思い知らされた気がした。
「さてと、神官さんはどこにいらっしゃるかしら。」
祇里は辺りを見回した。
「あれ?」
陽介と咲がいない。
「月斗さ…」
祇里は固まった。
すぐ横にいたはずの月斗もいなくなっていた。


「…全く…祇里ちゃんも月斗はんも陽介はんもどこ行ってしもうたんや…」
咲は山道に立ち止まっていた。
先刻、急に風が吹いたので目を閉じ、再び開けてみると周りに誰もいなくなってしまっていたのだ。
「勝手に追いてかんといてよー…」
しょんぼり肩を落とし、のろのろ歩き始める。
「あれ?」
朱色の鳥居が見えてきた。
「あれあれあれ?着いてしもうた。…田上神社。」
鳥居を潜ると神社の入り口に神官が立っていた。
「なんや?まだ祇里ちゃんたち着いておらへんの…?!」
咲はただならぬ予感に震え上がったが、とりあえず神官に声をかけてみることにした。
「あの…式野神社のお供の者ですが…祇里はんたちはまだ来てないんですか?」
神官は目を丸くした。
「まだ来られてませんが…どうなさいましたか?」
咲は、頭がクラクラした。
「あかん…はぐれてしもた…」

月斗は何が起こったのかわからず、立ち尽くしていた。
「あれ…俺はさっき祇里と神社に着いたはずなのに…」
突風が吹いて気がついたらまた山道に戻っていたのだった。
もちろん周りには誰もいない。
「なんだ、このゾクゾクする感覚は…」
この感覚は。
「妖怪か…!」
そのとき道の脇の茂みがガサガサと揺れた。
「ま、待て!」
月斗は舗装されていない山の中へ走り出した。


「うう…出られません…」
祇里は神社の入り口の鳥居の前で困惑していた。
鳥居には目には見えない壁のようなものが張られている。
「なんなんでしょう…これ…。おかしいです…何故かしら、まるで自分の中に閉じ込められたような感じ…」
祇里は懐の珠に何気なく手をやろうとした。だが、そこにあるはずの珠がないことに気がついた。
祇里は全身の血が引いたように真っ青になり、その場にへたりこんだ。
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