式野物語

□閑話
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境内は人々でいっぱいだった。
いつもは神聖な空気が漂う神社も今日はお祭り気分で俗っぽい。
「うわー、すげえな…。」
とりあえず陽介を誘おうと宿舎の方へ向かおうとした時。
「ママー…」
子供の泣き声が聞こえた。
声の主を探してみると人混みに紛れて泣きながら顔を覆っている女の子がいた。
「ママどこ〜…」
月斗は女の子の方に歩み寄った。
「はぐれたのか?」
女の子はビクッと肩を震わせ、月斗を見上げた。
女の子は怖ず怖ずと頷いた。
どうせやることもないので女の子の母親を探す手伝いをしようと思った。
「一緒に探してやるよ。」
月斗は女の子に手を差し延べた。女の子はしっかり月斗の手を握った。
「ありがとう、お兄ちゃん。」
女の子は嬉しそうに笑った。

「お母さんってどんな人?」
母親を探すべく月斗は特徴を聞いてみることにした。
「んー…優しいよ!」
「ああ、ごめんごめん。見た目のことだよ、それを頼りに探すんだよ。」
女の子は視線を泳がせた。
「紅い着物で…さらさらの髪なの。背は高いよ。」
「了解。」
月斗は人混みに目を凝らした。だが見つかりそうにもない。
「あっ」
突然女の子が声を上げた。
「見つけたか?」
「ううん…あの…あれ…」
女の子は小さな指を屋台に向けて指した。リンゴ飴が売っている屋台だ。
「食べたいな…」
月斗は女の子のかわいらしい様子に思わず微笑んだ。
「買ってあげるよ」
「ほんと!?」
女の子は瞳を輝かせた。
「うん、任せろ。…すみませーん。リンゴ飴2つ下さ…」
屋台の主人を見た瞬間、月斗は目をぱちくりさせた。
「陽介…何やってんの?」
陽介はリンゴ飴の屋台を営んでいた。
「お、月斗じゃん。萩に働けって言われてさー。」
「なるほど…」
用心棒になったりリンゴ飴屋になったりいろいろ大変な奴かもしれない。
「リンゴ飴3つだったな」
「2つだよ」
「いいじゃん別に。300円です」
首を傾げながらお金を払うと、リンゴ飴2つ手渡された。
「おい」
残りの1つは陽介の口にくわえられた。
月斗はため息をついた。
「いいじゃん、お前2つ食うんだろ?」
「違うよ…この子に」
「ん?」
女の子はサッと月斗の陰に隠れてしまった。
「どこ?まあいっか。あ、月斗。」
「何だ」
「あけおめ!」
月斗は頬を緩めた。
「ああ、あけおめ。今年も宜しくな。」
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