Storia-短編集-

□荒野デ緑ノ舞踏ヲ
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満月の夜、荒野に一人の少女が踊っていました。彼女の身体から出るキラキラの光の粒を蒔き散らしながらくるくる舞っていました。彼女の身体は光の粒が舞い散る度に薄く透けていきました。
彼女の表情は幸せそうで、踊りに一生懸命でした。

草がなく食べ物に飢えた兎が、じっと少女を見つめていました。
彼女は兎に気づいていながらもひたすら踊り続けていました。少女の光の粒が兎の体に当たりました。途端に兎は元気が湧いてきました。
たまらなくなって兎は少女に尋ねました。
「どうして踊っているの?」
少女は答えました。
「光の粒を荒野に蒔くためよ」
兎は尋ねました。
「その光の粒は何?」
少女は答えました。
「命のかけらよ。」
兎は尋ねました。
「どうして命のかけらを撒き散らしているの?命のかけらが全部身体からなくなったら死んでしまうよ。」
少女は答えました。
「この荒野に緑を芽吹かせたいの。」
兎は尋ねました。
「どうして?」
少女は答えました。
「自分の命が、緑を芽吹かせ、この荒野にいくつもの命を誕生させるなんて素敵でしょ。私が消えたあとで荒野に草が生え、木が育ち、森林ができるのよ。私の命が森林で生き続けるの。私はなんて幸せなんでしょう。」
兎はポロポロと涙を落としました。
「草が生え、木が育ち、森林ができるのは何年、何十年、何百年かかるかわからないけど、兎さんの可愛い子孫がその森林で駆け巡れますように」
少女は踊りながら言いました。
少女は、大きく両手を広げ、くるりと回りました。
その瞬間少女は光の粒になって消えてしまいました。
光の粒は、緑色の光を放ち、荒野の空気に溶けて消えました。


Fin.

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