Lunatic Orbit

□第8章
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 ルナは中庭の木の陰でシに治癒魔法をかけた。少し顔色がよくなったのを確かめ、今度は礼を振り向いた。
 「大丈夫?」
 「俺より、この子」
 礼がレナを差し出す。悲しそうに目を伏せた。
 そっと肌に触れてみると、少女とは思えない……いや、人間とも思えないような硬い手触りだった。
 「解毒なのかしら?それとも、もっと別の?」
 「わからんな……。人間がこんな風になるなど、聞いたことがない」
 オゼロも唸った。
 「ひとまず、生命力を活性化させます。あとは今の治癒術に……あっ」
 ルナはぱっと口元を押さえた。怪訝そうにする迅から顔を逸らし、レナを覗き込む。
 「それにしても、なんだ?ずいぶんと静かじゃないか」
 オゼロがそれとなく話題を変えた。
 「あんなに音を立てていたというのに、兵の一人も来ない」
 「それはそうですよ、オゼロさん。丁度今の時間は大佐の練習時間だったのです。爆音がした後に急に静かになるのもよくあることでした」
 「!?」
 迅たちは声の出所を探して辺りを見回した。礼が一本の木を蹴る。
 「わーっ!」
 間抜けな声を出して落ちてきたのは、エリナ小隊の男性隊員だった。
 「な、あ、あんた、なんでこんなところに!?」
 迅は金魚のように口をパクパクさせている。
 「いや、一応ハーグダッツ兵ですから、エリナ様の指示の元、一旦ハーグダッツに帰還しただけですよ。その方があなたたちをサポートしやすいですしね」
 「サポート?」
 「たとえば、場内でみなさんが見つかったとしましょう。追いかけるのが我々ならば、結局みなさんは首相私室へたどり着けます」
 「おー!」
 「と、まぁそんな感じで。俺はそれだけ伝えにきただけなんで」
 エリナ小隊隊員はパタパタと手を振ると城内に入っていった。ちらっと振り返り、グッドラック!と指を立てる。迅は彼に頭を下げた。
 「エリナさん、手回しが早いな」
 「それはそうさ、エリナなんだから」
 オゼロが目元をゆるませて頷く。
 「あ、シ、大丈夫?」
 礼がシを見下ろして声をかけた。シはいつの間にか目を覚ましていた。



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