Lunatic Orbit

□第9章
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 一行はできる限り足音を潜めて、階段を下りてゆく。
 (どこまで続くんだろう)
 ルナの持つ杖の先の宝珠の放つ光が薄く階段を照らしている。それを見ながら迅は拳を握りしめた。
 「ルナ」
 「──何?」
 「首相のこと、やっぱりなんとか説得とかできな「迅」
 ルナが長い髪を揺らした。鋭い声が迅の言葉を制する。
 「『バカは死んでも治らない』って知ってる?」
 「……」
 「あの人は罪悪感なんてもう感じてないの」
 「──ルナ……」
 「大丈夫。迅は、絶対元の世界に送り返す。今は目の前のことに集中して──お願い」
 ルナが足を止めた。丁度階段が終わり、暗い空間がそこにはあった。

 「生きた人、気配、ない」
 「そうか……この辺りに首相と依守はいないようだな」
 「待ってください。“生きた人”の気配はない……って、どういうことなんです……」
 シが何かにつまづき、言葉を詰まらせた。
 「命がさまよってる人、いっぱい。死んでない。生きてない。強い力。大人、子供……」
 「──!!」
 おそるおそる振り返ったシが、抑えた悲鳴を上げた。
 「人!?」
 「能力者だわ。眠らされているみたいね」
 「力、流れる!」
 礼が奥の扉を指差した。
 「首相と依守はあの中か!!」
 「ねえ、何か、音がしない?」
 ルナが顔をしかめた。微かだが、何かが起動したような、そんな音がした。
 「きゃ!?」
 またシが悲鳴を上げた。残り四人も息をのむ。
 「これは──!?」
 「──駄目!魂、器、戻る!出る、駄目!!」
 淡い燐光を放ちながら能力者達の体から溢れ出た魂が、奥へと吸い寄せられてゆく。
 「死んでしまう、本当……行く、駄目……!」
 礼の瞳から涙がこぼれる。
 「行きましょう!魂をあのバカに盗(ト)られる前に!」




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