Lunatic Orbit

□第5章
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町は鉄の柵で囲まれていた。石畳の道、家も今まで見てきた町や村よりしっかりした造りだった。だが、全体的に朽ちていた。血の臭いが濃くなる。

柵を乗り越え、町へ入る。地面には血がこびりついていて、迅は身震いした。

「何があったんだ…?」
「迅、見ろ」
礼の視線の先には人が倒れている。
近づくと腐臭と血の臭いが強くなった。
「うわっ…死んでる」
迅は顔をしかめた。
「…殺されたみたいね」
ルナが後ろから覗いた。
地面には割れたコンパスが転がっている。どうやら能力者のようだ。

「あ、あそこにも人がいます」
シが小声で囁いた。
見ると崩れたレンガにもたれかかるように座っている男が見えた。男は満身創痍だった。
年はもう成人しているだろうか、黒髪から覗く眼光が鋭い。右目には眼帯のようなものが取り付けてあり、瞳がある辺りにはレンズが嵌め込んでいるようだ。
首には紺色のロングマフラーが巻かれており、黒いコートの裾はボロボロだった。

礼が男に近づいた。
ジャキ。と金具の音がした。
「動くな。」
礼に銃口が向けられた。
男の手には銃があった。
よく見ると背中にはライフルが背負われている。
「敵違う。手当てしにきた。」礼が慌てて首を振る。
ルナが恐る恐る近づき、手をかざした。
「我が友の傷を癒したまえ、ヒール!」
光が溢れ、男の傷が癒えていく。
「お前は術士か…」
ルナが頷いた。
「…そうか」
迅が男に近づき問い掛ける。
「この町、酷い有様だけど何があったんですか?」
男は迅を不思議そうな顔で見つめていたが、ようやく口を開いた。
「一般市民は一人残らず工場に連れていかれて、抵抗した能力者は惨殺されたのだ。」
「っ!」
「もともとハーグダッツに近いこの町でも定期的に一般市民は数人ずつ、能力者も2、3人連れていかれる程度だったが、今回は…ほぼ全滅だ。」
「ひでぇ…」
「他に生きている人は!?」
男は肩を竦めた。
「さあ…知らんな。」
ルナとシが顔を見合わせ、生存者を探しに行った。
「礼、また礼の時と同じように工場に殴り込みに行くぞ!」
礼がこくこくと頷いた。
「……。工場には…」
男は痛ましげな表情を浮かべた。
「どうした?」
男は目を伏せた。
「…いや、いい。俺も工場に行っていいだろうか?」
「ああ、仲間が多い方が心強い。」
男はフッと笑った。
「俺はオゼロという。呼び捨てで呼んでもらっても構わない。ガンマンだ。」
迅たちも自己紹介すると、ルナとシが戻ってきた。
「一応処置はしたけど…」
「今からオゼロに工場へ案内してもらおう。」
お願いします、と2人は頭を下げた。
オゼロは頷き、立ち上がった。
一瞬複雑な表情をしたあと、一同を導き、柵を越えて歩き出した。



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