Lunatic Orbit

□第6章
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ガタガタとトロッコが大きく揺れている。
(俺…。)
迅は空を見上げた。星は見えない。
(なんでここにいるんだろう。)
隣ではルナが体を丸めていた。銀色の瞳は遠く地平線を見つめている。
「迅。」
後ろから礼が彼の肩をつついた。
「俺…。」
迅は礼の頭を撫でた。礼は泣きそうな顔で目を細めている。
「何も言うな。」
「…うん。」
(理が違いすぎて…)
迅は唇を噛んだ。
(何も言えない。)
トロッコがスピードを増した。
(何で俺はここにいるんだろう…。)
何度も感じていた疑問が形になった。
(何で俺はここで、他人の命を動かしてるんだろう…。)
そんな迅を、オゼロはじっと後ろから見つめていた。

アルカナ製鉄所が見えた。礼がトロッコの縁を蹴って飛び降りる。迅たち四人もそれに続いた。
「礼、落ち着くのよ。」
無言で頷き、礼は気配を殺して入り口に近づいた。その後に続いてシが中をのぞき込む。平和な時代なら、間違いなく微笑ましい光景だった。
「依攻、いない。みんなまだ大丈夫。」
礼が扉をぶち破った。ルナは額に手を当てた。

「れー!」
工場の中がざわついた。少女が礼に抱きつく。細かく震えていた。
「れー、こわい!」
「大丈夫。俺、みんな、護る。」
ルナが人々の中へ駆け込んでいった。傷を癒している。シとオゼロは辺りを見回した。
「ここがアルカナ製鉄所か…。聞いていたほどではないな。」
「でもあそこの壁が大破しています。」
「あー、あれな。」
迅は鼻の頭を掻いた。
「あそこから機械が出てきて、戦闘になったんだよな…。」
思い返すとぞっとした。未だに飛び散った血の色を、臭いを、覚えている。そういえば掃除はしていなかった。
「それにしても…」
変じゃないか?
言おうとしたオゼロの口が止まった。真っ直ぐに壁の一部を見つめている。
「そこだ!!」
突然ライフルを撃った。バラバラになった壁の向こうから国役人が姿を現した。礼が青ざめて少女を遠ざけた。
「ちっ。そうやってるうちにやってやろうと思っていたんだが、気づかれたか。」
手には何か薬品を持っているようだった。
「ま、良いや。この二つ混ぜて…そらっ!!」
混ざった薬品がフラスコごと飛んでくる。シがとっさに風魔法を唱えた。同時にルナのバリアが迅たちと村人を包む。
「まずはお前からだ!」
薬品に気を取られているうちに、役人は一気に礼と距離を詰めていた。
「ヤバい!礼!」
「迅!みんな、頼む!!」
礼が役人を蹴りあげた。灰色の瞳に冷たい光が宿る。
「みんな、傷つける。許さない!」
体の動きに合わせ、はちまきが揺れる。その後に起こることに気づき、迅はとっさに少女にかぶさった。
首筋に、生暖かく、ぬるぬるしたものが降りかかった。


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