式野物語

□第3章
1ページ/5ページ



吐く息が白くなり、霜が降り立った朝。

「まいどー!仕立て屋でーす!」
静かな冬の神社に威勢良い声が響いた。
咲が両手に風呂敷を持って戸口に立っていた。
萩が咲を迎えた。
「咲ちゃん、いつもありがとう。寒かっただろう、おはいり。」
咲は「ほんなら…」と言って中に入った。
「これ、祇里はんと月斗はんの着物。ええと、陽介はんの着物とマントやろ…あとは…」
あれこれ風呂敷を掲げ始める咲に萩は軽く笑った。
「とりあえず祇里の部屋に行きましょう。」
「そ、そやな!」
咲は顔を赤くした。
前を行く萩の背中を凝視する咲の顔には陰りが見えた。
「あ、咲か」
通路の向こうから月斗が声をかけた。
「月斗はん、頼まれてたもん完成したで〜」
「おお、ありがとう!陽介呼んでくるよ!」
月斗はバタバタと走って行った。


「あら、可愛い着物ですね〜」
「やろ?形はうちが考えたんやで!染料は高価な…」
祇里の部屋で咲が作った着物を広げ、楽しそうにはしゃぐ2人を見て、萩は微笑んだ。
そのときおもむろに障子が開いた。
「お邪魔します!」
陽介がどたどたと部屋に上がり込んできた。その後ろで月斗は決まり悪そうな顔をしている。
「陽介…もっと礼儀を弁えろよ」
萩が額に手を当て、呆れ返っている。
「ああ、すまんすまん。で、服は!?」
咲は半目になり、風呂敷を解いた。
「…これ。」
動きやすそうな軽い着物だ。それは月斗が陽介を考慮して咲に作ってもらったものだ。
「おお〜!」
「あとこれも。」
温かそうなマントだ。これからの厳冬にも耐えられるだろう。
「おおお〜〜!!ありがとう!」
陽介は嬉しそうに咲の肩をばんばん叩いた。
「痛いっちゅーねん!」
部屋中笑い声が響く。
「さて、月斗はん。代金頂戴しまっせ」
咲の目が怪しく光った。
「わかったわかった。これだよ。」
月斗はずっしりと重い巾着を咲に渡した。
「…ふむ。キッチリ入っとるな。まいど!」
咲は笑顔を見せた。
「でもなんでそんなにお金集めてるの?」
月斗がぽつりと聞いた途端に咲の顔が陰った。
「……大事…やから。」
気になったが月斗はこれ以上聞くのはまずいと思ったので「そっか」と言って終わらせた。
「そ…そういえば、祇里ちゃん。そろそろ神珠参りの季節やけど、その新しい着物で行くの?」
咲はごまかすように話題を変えた。
祇里は頷いた。
「しんじゅまいり?」
月斗が目をぱちくりさせて聞いた。
意外なことに月斗の質問は陽介が答えた。
「神珠参りとは、祇里が持ってる宝珠の力を他の神社にも分け与える儀式みたいなもんさ。でも全国各地にある神社へ行くのは無理だから事務的なことを担当している田上神社に力を分け与えればあとは田上がなんとかしてくれる仕組みだぜ。」
萩はうんうん頷いた。
「僕が教えたことをかなりはしょってあるがまあ大丈夫だろう。」
「へえ…。で、なんで陽介が知ってるの」
「去年までは護衛に陽介がついてきてくれてたんですよ。」
「ああ、なるほど」
月斗は納得して頷いた。
「ちょっとまて!去年まではって…今年は!?」
「月斗さんがいるから大丈夫でしょう。」
萩は当然のように答えた。
「ぎぇぇえぇっ!!!!!」
陽介はショックを受けた。
「あなたは田上神社で出る御馳走が目当てなだけでしょうが。」
「でも!でも…なぁ〜月斗ぉ〜」
陽介は月斗に助けを求めてきた。
月斗は困ったように萩をみた。
萩は半目になった。
「ま、まあ…俺初めてだから陽介がいると心強いし…いいですか?」
萩は観念したように頷いた。
「あ!私も行きたい!」
咲が声を上げた。
「ええっ!?」
萩は目を大きく見開いた。
「事業拡大や!うん!なっ!いいやろ!?」
「そうですね。今年はみんなで楽しく行きましょうか。」
祇里は手を合わせて嬉しそうに言った。
萩は諦めたように苦笑いをした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ