ポケモンレンジャー バトナージ

□第2章
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僕は今、ユニオン二階の会議室にいる。
「藤堂レン、あなたを世界に12人しかいないトップレンジャーの11人目に任命します。」
任命状とファインスタイラーを受け取る。もそもそと装着した。使い方を教えてもらう。
「遅くなって…すみません!」
慌ただしい足音が会議室に飛び込んできた。ササコ議長が苦笑した。
「遅刻の理由は知っていますよ。ヤミヤミ団に操られたポケモンを助けていたのでしょう?見ていた方から連絡がありましたよ。」
あなたもこれをつけて、と議長がファインスタイラーを渡す。彼は目を輝かせて装着した。「おー、かっこいー!」と呟きながらディスクを飛ばしたり格納したりしている。
「さ、そろそろお互いの顔を見合わせてご覧なさい。」
「へ?」
もう一人が目を丸くした。僕を見て、丸くなった目がさらに丸くなる。
「れっ…レンー!!」
「うるさ。」
僕は方耳を塞いだ。もう一人…ダズルは僕にしがみついてきた。
「久しぶり〜!!もう一人のトップレンジャーってお前のことだったんだ!」
「むさいから離れて。」
僕は腕を振り回した。ダズルがはじかれてしりもちをつく。
「…何か変わったな。」
「うん。多分ね。」
「それじゃ二人とも、オペレーションルームにいらっしゃい。」
ササコ議長の後に続いてエレベーターを登る。三人のオペレーターが並んでいた。
「モリーです。」
右にいた男性が一言だけ言って頭を下げた。隣の女性が苦笑いする。
「相変わらず無口ねぇ、モリーさんって。私はワンダ。よろしくね。」
一番左にいた女の子がギシギシとした動きで一歩前に出た。
「私はリズミです。スクール卒業からまだ一年もたってなくて…ってあなたたち、ダズルにレン!!何で!?どうして!?すっごい嬉しい!!」
「あーっ!リズミ!!」
「…久しぶり。」
僕は軽く片手を挙げた。ダズルは今にも駆け出しそうになっている。
「すげー!みんなで誓いのオブジェで誓ったことが叶った!」
「あなたたちの噂は聞いていますよ。なかなか頑張っているらしいじゃないですか。」
ササコ議長が笑いながら言った。
「トップレンジャーにリーダーはいません。形式上私が指揮をとりますが、あなたたちは自分の意志と責任で活動してください。それでも先輩はいるので、そこは頼っても良いんですよ。」
突然ワンダさんのデスクから無線の着信を知らせる音がした。
「はい!セブンさん?」
[ヌリエ高原にヤミヤミ団のザコがたくさんいて邪魔だ。手伝いに若いのが一人か二人欲しい。]
ワンダさんが振り返った。議長が頷く。
「ダズル、レン。行ってみなさい。」
「了解!」
「了解。」
ダズルは僕の腕をつかんで飛び出した。

「レン。」
「何。」
ユニオンのすぐ外。僕は服に付いた埃をはたいた。
「お前、変だぞ?」
「そう?」
ダズルは僕の頬をつねった。その手を叩く。
「ほら。昔のお前だったら結構騒いだのに。」
「さぁ。」
「さぁ、じゃねぇよ!何かあったのか?」
「別に。」
「嘘だ!」
ズキ、と胸の奥が痛んだ。何かがせり上がってくる。
「何でも…ない。」
「じゃあ何でさっきから作り笑いばっかなんだ!?」
「知らないよ!」
僕は木の幹を殴りつけた。何枚か葉っぱが散った。
「知らない…」
「レン?」
その場にしゃがみ込む。頭がグラグラした。
「おい、大丈夫か!?」
「うっ…。」
気持ち悪い。目に映るものすべてが不規則に揺れる。
「レン!」
「パチ!」
パッチーが背中を叩いた。スッと楽になる。
「…ありがと。」
「無理すんなよ。いや…俺のせいかも。」
ダズルがちょっとうつむいた。
「ごめん。今はまだ話せない。整理できるまで…ちょっとだけ待って。」
「うん。でも無理に話さなくて良いから。」
ダズルが僕の顔をのぞき込んだ。プイッと横を向く。泣きそうだった。
「立てるか?」
「うん。」

一言も話さないでアンヘルパークを通り抜ける。ヌリエ街道で気が立ったケンタロスに追いかけられ、急ぎ足でヌリエ高原に抜けた。
「なんだこりゃ?」
「黒い…霧?」
目を凝らす。人の姿があった。
「ヤミヤミだ!」
 ダズルがヤミヤミを締めに行った。
ボイスメールの着信があった。シンバラ教授の慌てた声がする。
[レン君とダズル君のスタイラーから異常な信号が届いとるが、何かあったのか!?]
「あ、多分…。」
ダズルが手を振った。ヤミカラスを指さし、「闇の霧!」と叫んでいる。
「闇の霧の影響です。ヤミヤミ団がヤミカラスに霧を出させてるんです。」
[そうか。なら良いんじゃ。とにかく気をつけて進むんじゃぞ。]
「はい。ありがとうございます。」
通信を切る。ダズルがヤミヤミ団から手を離した。
「この先にエアームドがいるんだってさ。他のヤミヤミと一緒に捕まえて岩部屋に押し込んであるらしい。霧を払えるかららしい。」
「助ける。」
「もち!柵で入り口を塞いだらしいから、マスキッパの力を借りよう。」
道すがら草に擬態していたマスキッパをキャプチャする。すぐに怪しい岩部屋は見つかった。
マスキッパが柵を切り刻む。木の柵は細かく刻まれ、埋められた。マスキッパはそこを新たな定位置に決めたのか、その上に乗ってまた擬態の状態に戻った。
「養分?」
尋ねたが、沈黙しか返ってこなかった。
エアームドが飛び立つ。羽ばたきが霧を払っていく。やがて視界が澄み渡った。
「よし!進もう!あそこの遺跡、すっげー重いフタがあるんだよ。」
しばらく進むとトリデプスがいたので手伝ってもらうことにした。高原を北に向かうとダズルの言ったとおり石のフタがあった。つい最近動いた跡がある。
「トリデプス、このフタを動かしてほしいんだ。」
トリデプスはのっしのっしとフタに近づいた。体当たりをしてフタを動かす。
「ありがとう!」
「サンキュ!」
手を振る。トリデプスが笑った気がした。

遺跡の中を深く潜る。ダズルは途中で出会ったスカタンクをキャプチャしていた。ちょっとイラっとする。
「だってさぁ。」
「興味だけ?それともブラウザコンプリート?」
「違う違う。ぜったいコイツ古株だから、遺跡の中のことに詳しいって!」
スカタンクはブオォォと鳴いた。のしのしと歩き出す。
「頼むぜ、相棒!」

スカタンクの後について行くと、本当にセブンさんの居場所に着いた。
「早かったな。」
「初めまして。俺、ダズルです。こいつは…」
「知ってる。俺はセブン。こっちがパートナーのレントラー。」
セブンさんはチラッと壁の向こうを見た。
「どうも、ヤミヤミの下っ端が小遣い稼ぎをしているらしい。色の薄い闇の石を拾い集めている。」
僕とダズルは二人でそれを覗いた。給料が少ないとぼやく声が切れ切れに聞こえる。
「…ん?そこにいるのはスカタンクだな。この住処を荒らされてお怒りのようだ。」
「どうかしましたか?」
セブンさんはスカタンクを見てくっくっと笑い出した。
「こうしないか?スカタンクが凄い強烈な臭いであいつらを追い出す。俺たちはあいつらが消えた後この先の調査をする。」
スカタンクが激しくうなづいた。ヤミヤミ団のど真ん中へ飛び出していく。
「喧嘩っ早いようだな。お前たち、鼻をつまめ。」
ヤミヤミ団のざわめく声が聞こえた。が、次の瞬間悲鳴に変わる。
「「「「くっさー!!」」」」
僕らに気づかない様子でヤミヤミ団たちは疾風のごとく駆け抜け、逃げていった。ダズルが気を抜いてむせかえる。
「ごほっ…これ、すげー強烈…。」
「あれ、スカタンクがいない。」
「勝手にリリースされたようだな。」
セブンさんはダズルの肩を叩いた。
「お前たちのおかげで道は開かれた。さあ、行くぞ。」
ヤミヤミ団がいたフィールドに足を踏み入れた。穴から下に飛び降りる。何ともいえない感覚におそわれた。
「っ…!」
頭を抱える。悪寒が走った。
「レン?」
「む…ミカルゲだ。」
セブンさんがちらっとこっちを見た。
「ダズルはレンを見ていてやれ。ここは俺がどうにかする。」
「はい。」
「何だ…これ…。」
セブンさんのキャプチャを見ながら呟く。
「ミカルゲ…の…先に…なにか…。」
「落ち着け、レン。ほら深呼吸。」
やがて道を塞いでいたミカルゲは要石の中に帰っていった。セブンさんが近づいてくる。
「大丈夫か?」
「…はい。」
心配そうなダズルの方を見て、ちょっと頷く。できれば笑いたかった。
(だめだ…。顔が強ばって…。)
「なら進むぞ。」
セブンさんは足を進めた。

ミカルゲのいたさらに向こうに、自然のホールが出来ていた。一番奥に人工物がある。祭壇に見えた。
「あっ…!」
「おい、レン。お前大丈夫じゃないだろ!?」
震えが止まらなかった。恐怖に襲われる。
「ここ…虚ろだ。なんか怖い…!!」
「闇の結晶が…無い!」
セブンさんが息を呑んだ。ダズルが僕を支えたまま目を丸くする。
「見てみろ。このあたりにはドカリモやモバリモに組み込まれていた闇のかけらが大量にある。その大元があるかと思っていたが、どうやらここにあったらしい。」
セブンさんが祭壇に上った。よく見れば壁に大きな穴があいている。
「それにしても…なぜダークライが結晶を護りきれなかった…?ここから運び出されたのか…。登れそうだな。レンの為にも一旦出よう。」
「…。」
声すら出ない。ダズルが僕を背負った。
「つかまってろよ。」
僕は頷いた。
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