ポケモンレンジャー バトナージ

□第3章
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目が覚めた。ぼーっと天井を見つめる。
 (あー、横になってる。この天井って、仮眠室?)
ようやく目覚めてくる。ここはユニオンだ。
(…ダズルが運んでくれたのかな。)
前にもこんなことあったなぁ、と思いながら起き上がる。右手が動かしにくいと思ったら、酷く不器用に包帯が巻かれていた。スタイラーは机の上に置かれている。
(これ巻いたの、ダズルだね。きっと。)
外そうかと思ったが、止めておいた。何だか安心する。
「…パチ?」
パッチーが気づいて近づいてきた。ペロッと頬をなめる。
「大丈夫だよ。ありがとう。」
僕はそっと戸を開けた。ユニオン中に緊張の糸が張っている。
「どうしたんだろ…。」
スタイラーを持ち上げる。ちょっと無理して装着した。
「パッチー、オペレーションルームに行って、きいてみよ…」
ズガァァン!
突然目の前の壁が崩れた。もうもうと上がる砂塵に視界を奪われる。ここは二階だ。
「なんじゃ!?」
「どうしたんですか!?」
シンバラ教授とイオリが研究室から飛び出してきた。どうやらイオリは受け入れられたらしい。ホッとした。ショックからは立ち直ったようで、その早さに感嘆する。
「…よぉ、イオリ博士。それから、そこにいるのは…ドレンじゃないか?」
「あっ!」
ああ、コイツいたなぁと思い出した。アルミアのお城だ。
「アイス!」
「んー?報告書に訂正入れたのに、また性格変わったな?まぁそれはどうでも良いや。俺が用があるのは、イオリ博士だけだからな。暇があったら、お前とはまた後で遊んでやるよ。」
僕はイオリの横に移動した。どうやらヘリで壁に穴をあけたらしい。
「ありえないマシンのデータを解析し直しました。今まで僕のことを騙していたんですね!?」
「あ、わかってたんだ。だったらもう良いや。ありえないマシンの最終チェックに博士の力が必要でな。」
「行きません!!」
「あら、大人にたてつくのは賢い考えじゃないわね、イオリ“博士”?あなたが嫌って言っても、連れて行くことは出来るんだから。」
ひょこっとピンク色のものが姿を現した。
「ケイノ!」
「さんをつけなさい、さんを!一応年上よ!?」
─なんだ、おばはんじゃん。
いつもならそう言うダズルが今いない。そういえば一階が騒がしい。
「これが見える?」
ケイノがヘリから完全に出てきた。誰かを連れている。先がカールした金髪が揺れた。
「…ロッコ!」
「来る?来ない?来なかったらこの子…ほら。」
ケイノがロッコちゃんの腕をつかんだ手に力を込めた。ロッコちゃんの顔が歪む。小さなうめき声が漏れた。
「もっとやっても良いのよ?ほら。」
「いたい!いたいっ!」
イオリが青ざめる。がっくりと肩を落とし、足を踏み出した。
「ごめんなさい。ロッコだけは…。」
トボトボと歩いていく。一回だけ振り返った。
「さ、行くわよ。イオリ“博士”。」
ヘリの中に消える。
「ケイノの奴…良いところだけ取りやがって。しかたない。ドレン、遊んでやるよ。相手はこいつだ。来い、ガブリアス!」
ヘリからガブリアスが飛び出してくる。泥の固まりが吐き出された。シンバラ教授を押し倒し、避ける。
「んじゃ、バーイ。」
「今に見てろよ氷!」
スタイラーを構える。
「後で後悔させてやるからっ!!」
すっぱぁぁーん!とディスクを当てる。「いてぇっ!」と悲鳴が上がった直後、ヘリは飛び立った。戻ってきたディスクを受け止める。
「ガブリアス、落ち着いて。あの変なやつは相手にしなくて良いから。キャプチャ・オン!」
ディスクをセットし直す。撃ち出した。

ガブリアスがリリースされ、帰って行く。僕はシンバラ教授を振り向いた。
「教授、今、何が起きてるんですか?」
「…会議室に入りなさい。そこで話をしよう。」
「がーっ!あのデブったおっさんムカつく!!」
ダズルがイライラしながら二階に上がってきた。
「ダズル君も、だ。」


「レン君、ダズル君、簡潔に言います。ありえないマシンは、アンヘルタワーです。イオリ君とシンバラ教授がデータ解析を行い、判明しました。現在アンヘルタワーの頂上にはヌリエの遺跡から運び出された闇の結晶が安置されています。」
ササコ議長が杖で床を叩いた。モニターに資料が浮かび上がる。
「アンヘルタワーは、巨大なドカリモのようなもの。セブンとハーブが青と赤の石を持ってタワー上空へ向かいました。闇の結晶を少しでも無効化するためです。これを私たちはアプライト作戦と名付けます。」
ピタッと足を止めた。壁に掛かっている電話が鳴る。内容を聞いた議長の表情が険しくなった。
「なんですって?頂上付近にバリア?三重?」
[セブンさんからそう報告が入りました。到底闇の結晶には近づけそうにないようです。]
「わかりました。それでもバリアギリギリまで近づくように伝えてください。」
[わかりました。]
議長が電話の受話器を戻した。会議室にいる僕らは全員口を閉ざした。
「手段…か。無いわけではないが…。」
シンバラ教授が口走る。表情は固く険しい。
「むむ…。」
「あら、ここに二人、頼れるレンジャーがいるじゃありませんか?」
「しかし二人とも新人であるが故、不安そうに…不安…む?」
僕とダズルは顔を見合わせて頷いた。口元をギュッと引き締め、教授を見つめる。
「行きます。」
「行かせてください!」
「…む?」
「手はあるんですよね。だったら、俺らにやらせてください!」
「さっきまで倒れてた僕が言っても仕方ないかもしれないけど…こんな一大事に新人だからって安全な場所に隠れていたくないんです!!レンジャーじゃない人達がみんな危険にさらされてるのに、レンジャーがこんなことしてはいられません!!」
教授はしばらく唸ると、頷いた。
「ではレン、お前さんのスタイラーを貸しなさい。そしてその右手を手当し直しなさい。それが終わったら腹ごしらえをして、再びここに集合。」
「─了解!」

包帯を巻き直した手をぎゅっと握りしめる。なにやら調整されたスタイラーを装着し直し、ユニオンから出る。
〈アンヘル記念日にありえないマシンが稼動するように設定されているらしい。黄の石を捜しながらバリアを解く。ダズルは黄の石を見つけ次第上空のセブンとハーブに合流する。〉
つま先でトントンと地面を叩いた。
〈そしてレンは頂上へ行き、ありえないマシンの発動を遅らせる。〉
「ありえないマシンを無効化させるまで…。」
あたりは暗闇に包まれている。まるで、いつかの夢のよう。
「行こう、レン!」
「うんっ!!」
時計を見る。アンヘル記念日まであと二時間。
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