ポケモンレンジャー バトナージ

□番外編1
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「ムクホーク、ありがと!」
眼下にビエンのベースが見えた。僕はムクホークにお礼を言って飛び降りる。また空気を思いっきり叩くような音が響いた。
「バロウさん!」
「レン、来てくれたか!!さっきからあの轟音が続いているんだ。」
僕は小道の先を見つめた。音はスクールの方から聞こえる。
「行ってみます。」
「待って、レンさん!」
小さな足音と乱れた息づかいが聞こえた。
「カイト!?どうしたの、そんなに急いで。」
「あの音…。」
隣の家に住んでいるカイトが僕に向かって走ってきた。
「リオルなんだ!リオルが波動弾を撃って、僕を捜してるんだ!僕にはわかる!」
「カイト君、冗談を言ってる場合じゃないよ。リオルは波動弾なんて覚えない…」
「本当だよ!」
クラムさんがカイトの肩に手を置いた。カイトは勢いよく振り払う。
「レンさん、僕も連れて行って!」
「わかった。何かあったらすぐ逃げるんだよ。」
「あ、レン!!」
「バロウさん、今だけ使って良いですか?」
僕はカイトの肩に手を置いて言った。
「トップレンジャーは誰からも指図を受けない。僕は自分の意志で、責任で、決めました。行こうカイト!」
「うん!」

スクールの小道を駆け抜ける。校門をやや乱暴に押し開け、校庭に入る。
「リオル!」
屋根の上に青いものがいた。カイトの声に、かざしていた手を下ろす。
(確かにあれは…波動弾だ。青の石の番人と同じ光…。)
「ごめんね、リオル。アルミアに引っ越すことが急に決まっちゃって、お別れを言えなくて。」
カイトは屋根の上のリオルに手を差し伸べた。
「また会えて嬉しいよ、リオル…。」
リオルは屋根を降りてきてカイトの前に立つ。一歩、足を踏み出した。
「リオル…。」
「リィィ…。」
 良かったなぁ、と思いながら僕は頭をかいた。ふと嫌な気配がして上を見る。
「─カイト、危ない!!」
僕はとっさにカイトを抱き抱えて横に跳んだ。丁度カイトがいたところを蔓が叩く。
「モジャンボ!たしかスクールの正門の近くにいた…!!どうして!?」
「はいはーい。どうしてって、このモバリモで操っているからですよ〜。海底油田に残っていた分は、光の結晶の影響を受けなかったんですね〜。さあモジャンボ、レンジャーをぶっ飛ばせ!!」
「カイト、下がれ!パッチーはカイトを守って!!」
大きく息を吸い込む。
「来い、モジャンボ!」

気心知れた(?)モジャンボが相手だったから、そう苦戦しないでモバリモから解放することが出来た。ノシノシと自分の巣穴に帰って行く。
「…フフフ。君は、負けるが勝ちという言葉をご存じですか?」
「何を言って…。団体戦じゃない限り、その戦法は通用しな…。」
僕はハッとした。リオルの姿がない。
「あのリオルはほかの地方で高く売りさばける。なんたって、珍しいですからね。」
「…っポケモンを売りさばく!?訳わかんないよ、君たち!カイトにリオルを返せ!!」
「お・こ・と・わ・りします。」
ヤミヤミ団員は足下の石を僕に投げた。額に当たる。
「いてっ!──待て!!」
後を追う。向こう側は海だ。地の利はこちらにある。
「逃がさな…」
「リオル、待って!」
カイトが前に飛び出した。僕は彼を抱きしめて止めた。
「ダメっ!」
「だってリオルが!!」
「…っ!」
 子供とは思えない力て振り切られた。心の底からの思いがどれほど強い力を持つか痛感する。
「リオル、置き土産に、お得意の波動弾だ!」
 「カイト、危ない!!」
「リオル───!!」
青い光が炸裂した。

僕は気を失ったカイトを背負ってベースへ戻った。かすった程度でよかったと心の底から思う。
「くそ…。くそっ…!」
ギリッと歯を食いしばる。
「絶対…許さない…!」
誰を?
ヤミヤミ団を。
守れなかった自分を。
カイトをベッドに寝かす。パッチーが這い上がってきた。
「パチィ…。」
「パッチー…。君が気に病むことはないよ。」
僕はパッチーの頭をなで、机に突っ伏した。
アプライト作戦以来、少し調子に乗っていたのかも知れない。あの程度の気配、昔なら気づかないはずがなかった。
「リオル…大丈夫かな…。酷いことされたりしてないよね…。」
クラムさんが部屋の戸を細く開けた。気づかないふりをすると、閉めて帰っていってくれた。

目を覚ましたカイトが夢を見たと言い出した。
「リオルが叫んでた。遠くて深く、海の真ん中の底深く。」
「遠くて深く、海の真ん中…。ホエルオーのおなかの中だ!」
クラムさんが言った。次の瞬間、ラクアさんがクラムさんのすねを蹴り飛ばす。
「ぜんっぜん違う気がする。」
「大きな建物、石油の臭い…。」
「石油…。レン君、それって間違いなくヤミヤミ団だったの?」
エレナさんが僕に聞いた。僕は頷く。
「じゃあ海底油田アジトよ!遠くて深い、海の真ん中底深く!石油の臭いに大きな建物!!」
「!」
記憶をたどる。確かにあそこは海の底まで続いていた。
「レン、頼むぞ!あそこの構造を知らない我々では不利なだけだ!」
「…っ了解。」
「僕も行く!!」
カイトが声を張り上げた。僕は身を竦ませる。
「危ないからだめ!」
 ラクアさんがすぐさま止める。カイトはすごい剣幕で詰め寄った。
「ラクアさん!リオルは僕を呼んでるんだ!!レンさん、お願い!僕も連れて行って!!」
「ごめん…だめだよ、カイト。今から向かうのは敵の総本山なんだ。」
「レンさん!」
カイトは今度は泣きそうな顔になった。
「ちゃんと言うことを聞くから!!お願い!!」
僕は右肩をつかんだ。感情が痛いほど…そう、まさに痛いほどに伝わってくる。
「カイト君…。本当に、言うことを聞けるかい?」
クラムさんがカイトの目を覗き込んだ。カイトは頷く。やがてクラムさんは顔を上げて僕を見た。
「レン、連れて行ってあげるんだ。それとも、ユニオンが誇るレンジャーには、子供を守り抜くことが出来ないのか?君の目指してきたレンジャーはその程度か?」
「…っ!」
視界が揺れた。隠してきた心の傷口に言葉が深く突き刺さる。
「レン。」
「…わかった。」
僕は肩から手を離した。スタイラーに触れる。
「行くよ、カイト!」
「う、うん!!」
乱暴にベースの戸を開ける。
─…ちょっと言い過ぎたかな。
クラムさんの呟きがかすかに聞こえた。

僕はズンズンとビエンの森をを進んでいく。カイトが走るようについてきた。
「は、早い…。」
「見えた。」
僕は足を止めた。見晴らし峠から海を見る。ちょうど海底油田の一部が見えた。
「今から行くのは、あそこだよ。」
「遠い…。」
カイトは食い入るようにそれを見つめた。僕は彼から少し距離をとって大きく息を吸い込む。
「クラムさんの…バカァァァー!!」
カイトがびっくりしてこっちを見た。
「もう絶対に、絶対に負けるもんかぁぁぁっ!!」
僕は気にせず海へ向かって叫ぶ。
「腹括って待ってろよ、ヤミヤミ団ーっ!!」
風が吹き抜けて僕の言葉をどこかへ運んでいった。僕は大きく息を吐く。何かが吹っ切れた気がした。
「…リオルー!待っててねー!絶対に助けに行くからー!!」
カイトも叫んだ。その声は風に乗って、リオルに届いただろうか。
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