ポケモンレンジャー バトナージ
□番外編3
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夕焼けが照らす無人のアンヘルタワーの頂上に、一人たたずむ影があった。彼はゆっくりと歩を進め、眩い光を放つ白い結晶にふれる。
「────」
目を閉じると、暖かい“気持ち”が流れ込んできた。彼には確かにそれがわかった。
「君はどこにいるの?」
静かな声が訊ねた。
「君はまだ、ここにいるの?」
静かに風が吹き抜ける。
「君がくれた僕の傷は、君でしか……」
夕日が傾く。朱い光が彼の姿をくっきりと映し出す。
「あの時はとても暖かくて。やっぱり僕には──」
薄く目を開ける。
「君が──必要なんだ」
呟いた言葉は誰にも届いていないはずだった。
「やっぱり諦められないよ。君の暖かさが、ずっと恋しい」
夕日が山に消えてゆく。暗くなる前に、帰らなければならない。でも、後少し。最後に眩い輝きを放つ、その時まで。
朱い輝きが目の前に広がった。世界が姿を変える。
その中に、黒いシルエットがよぎった。いるはずのない姿を見た。刹那、二つの影が並ぶ。
「────あ……」
ほんの一瞬でその姿は駆け抜けて消えてしまう。けれど──
彼は、なにもいなくなった空間に微笑み、手を振った。
誰も聞いていないはずの言葉を聞いている者がいた。彼の陰に紛れ、静かにたたずんでいる。
「────」
それは歩き出す彼の陰を抜け出し、空間をすべった。一度、彼を振り返って。
彼は、それに手を振ってからまた歩き出す。輝くものが、床に落ちてはじけた。
「──いつか」
いつか、この隔たりは埋まるのだろうか。
いつしかそれも、彼を求めていた。彼の温もりが恋しかった。
それは思考する。
いつか、畏れずに会える日が来るだろうか。あの微笑みを凍らせずに。そのためにそれに出来ることとは、一体何なのだろう、と。
夕焼けが薄れて、夜の色に変わってゆく。姿を変えた世界が、薄闇の帳に覆われてゆく。
彼らが再び出会うのは、また少し先。
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互いに畏れて、拒んで、離れて。まるで陽炎の映した幻のように消えてしまう。
手を伸ばして、君だけを求めて、消えてしまう前につかみ取ってしまいたくて──そしてそれは叶わない。その暖かさに触れることさえ許されない。
けれど。
願うのだから、望むのだから。
いつか、また会える──……。
だから。
今は手を振ろう。
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