ポケットモンスター Ideal Black & Real White

□BW番外1(出会い編)
1ページ/1ページ

 冷たい風の吹き抜ける道。切れるような光を投げかける月。すすり泣く声。
 「やっとみつけた。どうしたの?」
 草むらをのぞき込むと、小さなチラーミィが灰色の塊にしがみついて泣いていた。
 「……みー!」
 チラーミィは僕を見上げると、怒ったように鳴いた。
 「大丈夫。何もしないから。……そっちは、お母さん?」
 チラーミィの傍らにしゃがみこみ、僕はそっとその灰色の毛皮に触れた。冷たく硬く、あちこちもつれている。
 「この子……もう……」
 「みーっ!!」
 「痛っ!」
 チラーミィがその手を叩いた。パシッと打音が響き、皮膚が裂けた。
 「あ、ご、ごめん……」
 手の甲から流れた赤い雫が毛皮にたれた。慌ててタオルを出して、きれいにふき取る。
 「……悲しいね」
 そのまま、手を挙げるとチラーミィの頭に乗せた。柔らかく温かく、なめらか毛並みをゆっくりと撫でる。
 「悲しいよね。大切な存在だったんだよね……」
 「みー……!」
 「君の泣き声がすごく悲しそうで……ごめんね、君たちのこと、邪魔しちゃった……」
 ポンッと最後に軽く頭を叩き、僕は立ち上がる。
 「ごめん……ね。バイバイ」
 チラーミィとその母親だったモノを残し、僕はその場を離れた。
 「人間にはできないことが多い……なのにそれを忘れて動いてしまう……本当だよね」
 手の甲に走った傷を舐め、僕は夜空を見上げた。

 「みー!」
 翌日、同じ道を通ろうとしていた僕を、チラーミィが引き止めた。
 「みー、みー!」
 「君、昨日の……?」
 「みー!!」
 チラーミィは、「ついてこい」と言うように、僕を振り返った。

 「みー」
 そこは昨日と同じ草むらだった。母親だった塊の位置が少しずれ、その近くに浅い穴が掘られていた。
 「みー!」
 よく見れば、チラーミィの手は泥にまみれていた。キッと僕を見上げると、彼は穴のそばに寄って土を掻き始める。
 「なに……」
 「みー!!」
 彼は握った泥を僕に投げつけ、穴を掘り続ける。
 「そっか……わかった。手伝うよ」

 十分もしないうちに、チラーミィの体なら十分入るほどの穴ができた。僕はそっと母親だったチラーミィを抱き上げ、穴の中に横たえる。
 「君は、笑ってるんだね……」
 もつれた毛並みを撫で、そして離れる。
 「──っみー!!」
 チラーミィは積み上がった土に体当たりをした。パラパラと山が崩れ、穴を埋めていく。
 「そうだ。少し前に、綺麗な花を見たよ。あの花を摘んでこよう」
 道ばたに咲き乱れている桃色の花を摘み取り、僕はチラーミィのところに戻る。
 「もっと早く会いたかったな……優しい優しい、お母さん……」
 いつかここは花で満ちるだろう。この花の種が落ち、このチラーミィの母親の優しさを吸って、うんと綺麗な花が咲き乱れるだろう。
 「君はここで、生きていくの?」
 「みー……」
 チラーミィは手についた泥を払った。僕も手を伸ばすとあちこちについた砂埃を払ってやる。
 「じゃあ、元気でね。またいつか会えたらいいね」
 「みーっ!!」
 チラーミィは立ち上がった僕の足に体当たりをくらわせた。突然のことに受け身がとれず、僕はそのまま草むらに突っ込む。
 「わぶっ!な、何するんだよ!!」
 「み!」
 チラーミィは僕の目の前まで駆けてくると胸を張った。どんなもんだい!とでも言っているようだ。
 「みー!」
 「だから何?」
 「……み゛ーっ!!」
 チラーミィはありもしない牙をむき、僕に飛びかかってきた。あわてて顔を庇うと、帽子を取り去って道の向こうへ駆けてゆく。
 「あっ!こら、待て!!」
 「みー!」
 手が届きそうになるとスルリと逃げる。遠のくとスピードを落とす。また近づくと素早く避ける……その繰り返し。
 「……だーかーら」
 僕は空のボールを取り出して構えた。
 「──待てって言ってるだろ!!」
 ボールはふさふさした前髪に当たって開いた。二、三度揺れ、カチリと音を立てる。
 「……え、嘘……。あんなに元気なのに、捕獲できた……?」
 落ちた帽子を拾い上げ、埃をはたく。チラーミィはボールの中で飛び跳ねていた。
 「ねえ、君はどうしたいの?ここにいたくないの?僕にいたずらして遊びたいの?」
 「みー、みー!」
 ボールから出すと、チラーミィは僕の顔面に飛びついてきた。
 「──わっ!」
 再びバランスを崩し、転倒する。
 「みー!」
 チラーミィは、ふさっとしっぽで僕の手に触れた。
 ──しっぽを使ってコミュニケーションをとる習性がある……。
 「一緒に……来たいの?僕と、一緒に……」
 「みー!」
 チラーミィは目を輝かせて頷いた。
 「きっと楽しくないよ。だって……ぶっ!」
 「みー!」
 パチンと頬が音を立てた。そして、ボールを拾い上げると僕の手の中に押し込む。
 「…………わかった」
 体を起こすと、僕は彼を抱き上げる。
 「そうだなぁ。それじゃあ、君の名前は……“ノーマ”」
 「みーみ……みー!」
 「僕はホワイト。またの名を“ハク”……よろしくね、ノーマ!」
 「みー!!」
 チラーミィは──ノーマは嬉しそうに笑って両手を上げた。


+--+--+--+--+--+--+--+

 出会いのストーリー、ノーマ編。
 この話だけはチラーミィを見たときから決まってました。最初はノーマとノーマ母が密猟者(=プラズマ団)に襲われてるのをホワイトが見つけて、そこでハクと分離……って、メインストーリーの基礎になる予定だったんだけど、情報公開が進むにつれ、プラズマ団ならこんなこと出来ないよなぁ……って思ってね。
 うん……本編1ページ分の長さになったね(笑)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ