弐
□嘯く熱 中編
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涼しげな目を細め、静かに笑みを向ける女に、触れたくなる。
だが然し。
己が人斬りだと知られた今は。
触れる事は憚られた。
身体を重ねた時、女は己を人斬りだと知っていたのだが。
嗚呼、汚してしまったのかと。
己を悔いた。
「…泊まらせて欲しいと言ったが、失礼する」
「まあ、行く所があるのですか」
「ああ」
雨はまだ降っている。
「傘をお持ちになって下さい」
「返せぬぞ」
「ええ。構いませんから」
渡された傘を差し、万斉は歩き出す。
もう会いはしない女の顔を、もう一度見たいと思ったが。見れば惜しく感じてしまうかもと思い、歩みを早める。
「目指す道が見つかり、よう御座いました。万斉様」
万斉は、足を止め女に振り返る。驚きの顔を隠しもせず女を見詰めた。
「主、拙者の正体を知っていたのか…!」
玄関から出、万斉を見詰める女は柔らかく笑んでいた。
辻斬りと言うだけではなく。
河上万斉と言う人物である事を…。
「万斉、待ってたぜ」
女を呆然と見詰め、立ち尽くす万斉の背後から、晋助が話し掛ける。
「もう出て来ると思ったからなァ」
女が万斉に頭を下げると、静かに家に入る。
戸が閉められ。女の姿は消えた。
暫く立ち尽くしていたが。
「行くぜ」
晋助の声に。万斉は振り向く。
万斉は、晋助へと歩みを進めた。
中編 完