□酔い桜
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「見事な桜でござるなあ」


「はい。素晴らしいです」



支援者の用意した邸宅で。私は万斉様にお花見に誘われた。

月光の下で咲き乱れる桜は。其れは其れは綺麗に闇に浮かび上がっていた。

隣に座る万斉様は和服姿で。余り見ないその姿に私は。何だかとても恥ずかしかった。

其の、仕事から離れた寛いだ空間を共にしているのだと、思うと。


「酒が進まぬか?」

「あ、いえ…」

「主も寛ぎ、此の空間を楽しむでござるよ」

「は、はい」


緊張感が万斉様に伝わってしまったのか、気遣う言葉を言わせてしまった。

慌ててお酒を呑もうと、置いていた猪口を手に持つ。

すると万斉様が徳利を傾けてきたので、私は更に焦った。


「万斉様に注いで頂くなんて…!自分でしますので…」

「そう固くならず、上司と部下などの立場は忘れよ」

「は、はあ…すみません」


恐縮しながらお酒を注いでもらい、お酒を一気に煽った。

私は眩暈を覚えた。

勢い良くお酒を呑んだからではなく。其の私の様を見た万斉様が、微笑したからだ。


万斉様とは、任務以外で二人きりになった事は一度も無い。

だから、寛ぐ万斉様との此の空間に。どうすれば良いのかと困っていた。


「緊張が解けぬか?」

「えっ、いえ、その…」

「前から思うていたが、主はいつも恐縮しすぎでござる。拙者が恐いのか」

「とんでもございません…!」


嗚呼、何てこと。

恐がれているのかと思われていたなんて。

万斉様を前にすると、不審になってしまっていたから。

其れは。

万斉様に、恋なんて、許されない想いを抱いていたから…。


「では拙者を見てみぬか」

「え…?」

「主は、拙者をまともに見ていないでござるからな」

「……」


どうしよう。

どうしよう。

こんな距離で、まともに見れるわけがない。

見てしまったら表情に出て。

バレてしまうかもしれない。

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