壱
□野良のお月様
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丑三つ時。
晋助は隠れ家の周辺を散策していた。
右足を怪我した斑模様の野良猫を見掛けた。
野良だと解ったのは、随分と見すぼらしかったからだ。
猫は晋助の視線に気付くと、にゃあと鳴いた。
特にこれ以上興味が出なかったので、晋助は踵を返した。
すると猫が脚に纏わりついてきた。右足を引き摺りながら。
必死に鳴いていた。
それが酷く滑稽に見えて。
晋助は鼻で笑った。
すると猫は気分を害したらしく。晋助の足の甲に爪を立てた。
月明りの下。
紅い血の玉が浮かんでいる。
猫はそれを舐めた。
晋助はぴりと軽い痛みを感じた。
「お前ェ、腹でも減ったのか。それか怪我が痛いのか」
晋助の言葉に、猫は応えるようにひと鳴きした。
晋助は喉で笑った。
「お前ェが人間だったら解ったのによ」
そう言って、猫を見下ろしながら首を横に傾けた。
「いや。俺が猫だったら解ったのになァ」
そう言って、大層愉快に笑った。
晋助は隠れ家に戻る事にした。
猫は晋助に追いて来る。
「ククッ…池に住んでる鯉くらいならくれてやるぜ」
猫はにゃあと応えた。
完