□野良のお星様
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夜も明けようとした頃。
万斉は曲作りの仕事の手を休め、窓から外を眺めた。

白白とした空に明星がひとつ、輝いていた。

ふと、中庭の池から騒がしい音が聞こえた。何事かと注目すると、猫がバシャバシャと水飛沫を立てていた。


野良か…?


万斉は池でまるで暴れてる猫に興味が沸き、中庭へと向かった。

「お主、何をやっておる」

中庭の池へ辿り着いた万斉は、猫に話し掛けた。

猫は動きを止め万斉を見上げると、にゃあ、と鳴いた。

びしょ濡れの猫は右足に包帯を巻いてあったが、水に濡れて見るも無残だった。

「ふむ。待っているでござる」

万斉は猫にそう言うと家に戻り、真新しい手拭いと包帯を。そして餌の入った碗を持って来た。手拭いで猫を拭き、包帯を替えてやった。

「鯉は美味ではない。これを食べると良かろう」

猫は碗の中を覗いた。
猫にとっては鯉とどっちもどっちな感じだったが、鯉は逃げ回り捕れそうもなかったので、餌を有り難く頂く事にした。

猫が餌を食べている間、万斉はしゃがんでその様子を見ていた。

猫は餌を平らげると万斉を見上げた。


その頭上には明星がひとつ。


万斉は見上げて来る猫を見据えた。


その瞳は金に輝いていた。


「美味かったでござるか?」

猫は応えるようにひと鳴きした。万斉は猫をひと撫ですると立ち上がった。

「良い旋律を閃いたでござる」

万斉は満足げに鼻歌を歌った。
猫は名残惜しそうに鳴いた。

「腹が空いたら、また来るがよい」

万斉は別れを告げると、家へと戻って行った。


猫はまたにゃあと鳴いた。

名残惜しそうに。












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