□酔狂な奴
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あたしは孤児だ。
家は無い。
ねぐらは橋の下。

スリを働いて、生計を立てている。



今日も街を練り歩いて、スリを容易に働けそうな人間を探す。狙うは、金持ちそうな男や隙のある女、酔っ払い等。

ああ、いい奴を見付けた。編笠を被った派手な着物を着た女。彼奴に決めた。

態とそいつによろける様に軽くぶつかり、素早く懐に手を忍ばせる。財布を掴んで直ぐさま手を引く。

「悪いね」

ぶつかった事への詫びを言い、その場を去る。

あたしは路地裏に入ると財布の中身を確認した。

「けっこう入ってるね」

良い仕事をしたと、ほくそ笑んだ。



「悪餓鬼。それは俺の財布だぜ」



直ぐ後ろで男の声がし、ハッと息が止まった。

しくじった…!!

全力で逃げ出そうとする。

だが首根っこを掴まれ、走る事は出来なかった。

「相手を間違えたなァ」

喉で笑う男の声が怒りを含んでいて。あたしは恐る恐る男を見た。

編笠の派手な着物を着た、女だと思ったのは男だった。

「返せや」

あたしは慌てて男に財布を返した。

「警察には、お願いだから引き渡さないどくれっ」

「ククッ…どうするかなァ」

男は口許を歪め笑った。

「お願いだ、あんたの頼みならなんでも聞くから、堪忍しとくれ」

「ほう」

男は鼻で笑うと、こう言った。

「まあ、渡しゃしねえよ。俺も警察には関わりたかあねえ」

その言葉にあたしは内心胸を撫で下ろした。

「その代わり。俺の暇潰しになれ」

「え…?」

「俺にスリを働いた罰だ。ちゃんと償え」

「わ、解ったよ…」

私が応じると、男があたしからやっと手を放した。

男は編笠を取る。顔の全容が現れた。左目を包帯で隠して、右目は射抜かれるような、鋭い目をしていた。そして妖しい雰囲気を纏っている。

あたしは男の纏う雰囲気に畏怖を感じた。
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