□漂う
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脚が鉛の様に重い。

ぬかるんだ地面にずぶずぶと沈む。

ずるずると、泥がこびりついた脚を引き摺る様にして歩く。



辺りは屍体、屍体、屍体。



天人も人間も入り交じった肉の塊が地に。

その赤黒い光景を目に、剣を杖の様にして歩く。

ざくざく、ざくざくと。



仰いだ空は、澄み切った青。

それがやけに、現実味を帯びて目に焼き付く。

生々しく。



ずくずくと左肩が痛い。
血が垂れ流れる。
地にぽつりぽつりと滴る。


嗚呼、

何で此処にいるんだろう。


意志も意識も薄れて行く。

縺れる脚そのままに。
いつしか歩みは遅れてく。

霞む目に、肉塊が蠢く姿が目に付く。

その肉塊は立上がり、私に向かって歩いて来る。

鈍く光る剣の切っ先を私に。


『お前は何故此処に居る』


まるで、そう言う様に剣を振り下ろす。

私はゆっくり瞼を閉じた。


キィー…ンッ


剣と剣がぶつかる音が耳に響く。
血飛沫が噴き出す音と、地に倒れる音。

その後は、静寂。

片足を跪いた私の肩に、重みが掛かる。



「こんな処で死ぬ気か」



瞼を抉じ開ける。

見上げると、そこに居たのは。

「おんしの存在を失くすんじゃなか」

「…私の勝手」

「死なせはせん」

「意味を、忘れた」

「見失いそうになる時もある」

「…何で、此処に居るんだろう…」


ぽつりと、口から零れた。


「…帰るぜよ」

肩に掛けられた手が私の身体を持ち上げる。

私はされるがまま抱えられて戦場を離れる。


「辰馬…」

「なんじゃ」


辰馬は前を見据えて歩く。

私は意志も意識も薄れたまま。

意志も意識も浮上させようと。

この男にしがみつく。


「辰馬…」

「なんじゃ」


辰馬は前を見据えて歩く。

薄弱になった私を包んで。

大きいこの男は、私も、背負い込んで歩いて居る。



私を見失わないで。

私は見失わないで。










仰いだ空は、澄み切った青。




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