□影踏み
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嗚呼、

今日も、

生きながらえた…。


荒れた地に膝を突く。
天人も仲間も解らない肉塊が転がる黒々とした光景。
焼け焦げた臭いと、血腥ささが混じった異臭に顔を歪める。


先には、桂の姿が。


死に損ないの天人に止めをさしながら、息のある仲間を探している。

生きてる。

あたしはそっと安堵の息を吐き、瞼を閉じた。






「かつらーー!!」

あたしは、桂の後を追いかけていた。

夕日を浴びる桂からは長い長い影が伸びて。

あたしはその影を踏む。

桂は振り返って、顔を顰めた。


「またお前か」

呆れ顔で、桂は溜息を吐く。

「何故追いてくる」

「影踏みしてるだけ」

「そうか」

それだけ言って。桂は歩き出した。あたしは追いて行く。


影踏みは好きだよ。
桂限定で。


いつも先を行く桂は、松陽先生にべったりだった。松陽先生の側を離れない。

だから、家へ帰る時しか二人きりになれなかった。

「ねえ、桂」

「何だ」

「松陽先生好き?」

「尊敬している」

「ふうん」

あたしは桂の背中を見つめながら、近場にあった小石を蹴った。

「あたしは嫌い」

「…お前、帰り道はあっちだろ。帰れ」

「嫌だ。影踏みしたい」

そう言うと桂は盛大に息を吐き、振り返ると。

「遊ばないぞ」

そう言って先を歩いた。

「いいよ。追いて行くだけだから。桂に」

桂は立ち止まる。
またこっちを向いてくれた。

「遊ばないぞ」

そう言われたけれど。今度は微かに笑んでくれた。

あたしは桂の後を追う。

桂の後を追うのが好きだから。






あたしは、温かい記憶を思い浮かべていた。

瞼を開く。

国の行く末を案ずる桂には、追いて来る者が多い。

敬愛する松陽先生はもう居ない。

桂は松陽先生に代わり、国を守る。

先を見据えて進む桂に、あたしは見えてる?

あたしは桂、見えてるよ。




負傷者を気遣いながら重傷者を運ぶよう指示し、皆を纏める桂の背中は逞しい。

そうだ。見てくれているんだ。

だから、桂は一人じゃない。

嗚呼、

何だか、

あの頃の様に。





「かつらーー!!」





影を踏もう。

貴方の影を。

離れはしないよ。





ほら、

振り返って、

笑ってくれる。












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