弐
□嘯く熱 中編
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事を済ませた後、女と暫し眠りに落ちた。
目が覚めると。暗がりの中、隣に静かに寝息を立てる女の事を考えた。
欲を吐き出すために抱く玄人の女以外を抱くのは久方振りだった。
五月蝿い柄の着物を着込み、べったりとした唇で肌に這い回り、大袈裟な甘ったるい声を出す姿に吐き気がするが、欲を吐き出すためには仕方なかった。
そんな女共とは違う女を抱き。事をしている最中、いくらか興奮した。
抑えた声に。遠慮がちに強請る腰に。柳眉を歪め涼しげな目を潤ませた、艶めかしい姿に。
背中が波立ち、ぞくぞくした。
我を忘れるように女を抱いたのは、何時振りだったろうか。
だがこの感情は。玄人ではない女を抱いただけだからだ。
闇を見据える内に。
くすぶる熱が、ふつふつと沸き上がってくる。
万斉は女を起こさぬよう布団から抜け出すと、服を身に纏った。
小雨の降る夜へ繰り出す。
暫く彷徨うと、人影が目に付いた。
其奴が帯刀している男だと解ると。万斉は刀を引き抜き男に向かって行った。
絶命した男から溢れ出す、雨に滲む血を眺め。
満たされない感情がまた蓄積されたと思いながらも。どこか落ち着くのも感じ。
そうしてまた、熱が疼き出すのを感じ出す。
入り交じる渦巻いた感情を持て余しながら。
再び徘徊を始めようかと足を出す。
「なあ、お前ェ」
背後から男の声がし、万斉はぴくりと肩を微かに揺らした。
気配を感じさせなかった男を肩越しに見遣る。
少し距離のある柳の下に、傘を差した着流し姿の男が目に入った。
顔の全容が見えない男の口許から、紫煙が立ち上る。
「小物斬り殺しても、楽しかあないだろう」
男が近付いてくる。
万斉は男に向き、握る刀を構えた。
「クッ…俺を斬る前に、世界を斬り落とさねえか」
「…世界?」
「ああ。腐り落ちたこの世界を、俺とぶっ壊そうや」
傘が少し上がると。
左目を包帯で隠し、鋭い右目が現れた。
「…主は、」
その顔を見て、万斉は目を小さく開いた。
「攘夷戦争で名を轟かせた、鬼兵隊の…高杉晋助か」
「ああ。俺ァ鬼兵隊を新たに発足する。河上万斉、お前ェを鬼兵隊に入れてやろうと思ってなあ」
「拙者を、か…」
「剣豪のお前ェが意味ねえ辻斬りを働かせとくのには、勿体ねえと思ったからよ」
「ふむ」