ボカロ 短編

□包帯の下の赤
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帯人が風邪をひいた。



VOCALOIDが風邪をひくだなんて聞いた事ないけれど、帯人は元から創られる筈のない存在。
不安定だからだろうか。

今は私のベッドに寝ている。



上気した、いつもより赤い頬。
苦しそうに荒くなった呼吸。
辛そうだな…。


「大丈夫?帯人」

「ます、た…」


本当に辛そう。というか、辛いだろうな。


「辛いね…」


頭を撫でてやると、心なしか気持ち良さそうに目を細める。


「ますた…手、冷たい…」

「あ…ごめん」

「…ううん……気持ち、いい…」


苦しんでいる帯人を前に、可愛いと思ってしまった。
不謹慎にも程がある。


「寒い?」


弱々しく首を横に振る帯人。

私は彼の額にうっすらとかいている汗を拭う。


薬を用意しなければいけないと思いつき、同時にご飯も食べさせなければいけないと思い当たった。
市販の薬がVOCALOIDに効くかどうかは分からないが、用意するに越した事はない。


「帯人、ちょっと待っててね」


飯は消化にいい物を。
 
私は部屋を出ようと立ち上がる。




と、その時。

服に、少しの抵抗を感じた。


引っ張られるにしてはあまりに弱く、引っ掛かったにしてはあまりに解けやすい、軽い抵抗。

私は原因を見ようと、抵抗を感じた服の裾を見た。
特に何も無かった。ように見えた。

しかし下を見てみると、今まで布団の中にあって見えなかった帯人の手が。


「…帯人?」


帯人は辛そうに、片方は包帯に隠れたその隻眼を私に向ける。


「……す、た…ぁ」


掠れた声。
喉もやられたのだろうか。


「帯人どうしたの?」


手をギュッと握ってやる。
傷付けられた包帯だらけの腕が見えた。
傷痕だって何度も見てる。


「ま、す…たぁ…」

「なぁに、帯人」


聞こえないのでしゃがんで耳を寄せる。
大体は聞こえる筈だ。


「ますた、ぁ…っ…どこ、行くの…?」


伸ばした手は震えていて。
不安そうに潤んだ瞳が揺れている。

何を想像しているのだろう。
怖い事でも考えているのだろうか。

伸ばされた手は私の頬へ。
細い指先が触れた。


「ご飯作りに行くだけだよ」


帯人が想像しているような事はしないから。
 

「嫌…だ…っ……マスター、やだ」

「帯人…?」

「ここに、居て…やだ……俺、の…ます、た…」



風邪の時は人肌が恋しいと言うが、これは少し異常だ。
私を求め過ぎている。



「帯人?帯人、大丈夫だから」


私が帯人に手を伸ばすと、もう片方の手が私の腕を掴む。
痛いくらいに。


 
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