落第忍者
□01
1ページ/2ページ
顔が隠れるくらいの編笠に、一般人に紛れられる普通の格好。
そして茶屋で静かな取り引き。
依頼人とは背中合わせで、互いの顔は決して見ないし見られない。
それが私の、仕事の受け方。
これは忍者の間では多く使われていて、自分の拠点を知られたくない私はこのやり方を気に入っている。
一般人の誰もが、まさかここで忍者が仕事の依頼を受けているなんて想像もつかないだろう。
何より、自分の顔を見られなくて済むのがいい。
仕事の内容は様々で。城の見取り図や罠の位置を調べて来たり、戦争の場となった廃村の状況、果ては殺しなんて事も。
今回の依頼は、暗殺だった。
「ある城を落としてきてほしい」
この手の依頼はよくある。
ある城が上げた功績により他の城の状況やらが悪くなり、怒りを買うという、所謂逆恨み。
城のお偉いを暗殺、というのは非常に面倒なのだ。面倒事が嫌いな私は、場合によっては引き受けない。
さてどうしようかと悩んでいたところ、再び男の声が聞こえた。
聞けば、その城の跡継ぎは女だと。
それならば簡単。悩む必要など無い。
女子しか生まれてこなかった城は、大方後継者争いで揉めている。
大体のケースは婿養子を取る事なんだが、ある日突然、姫がいなくなってしまったらどうなると思う。
次の後継者を巡って本格的な争いが生まれ、自然と組織は崩れ去る。
そうやって簡単に落ちる城を、いくつも耳にしてきた。
つまり私は、城を内部から崩す事に決めた。
「その依頼、引き受けた」
まずは獲物側の信頼を得ねば。
(何も知らない狐は笑う)