その他 短編

□遠い昔
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遠い昔の夢を見た。







俺が、初めて一人で行った任務。



内容は勿論暗殺。


人身売買をしている男を殺して欲しいとの事。







人身売買のオークションは零時ぴったりに行われる。
それまでに片付けてしまおう。









裏で準備をしている男の前に現れる黒い陰。


「だっ…誰だ!?」



名乗る必要などない。


手早く喉を裂いた。



まだ短かった髪は、僅かに揺れた。









「あ…」







幼い少女の声がした。








先程まで生きていた男の後ろには、人ひとり入れるくらいの檻。

その中には、幼い少女が捕らわれていた。




今日の目玉だったのだろうか、綺麗に着飾られている。







 
 

「…なんでこの人、殺したの?」





驚いた。

目の前で人が死んだのに普通に喋れる事に。





「仕事だよ」



俺がこの男を恨んだ覚えはないけれど、依頼されたから殺した。
それだけ。






「私も殺すの?」

「依頼されてないから殺さないよ」


この子を殺しても金は入ってこない。






「ここから出たい?」

「出られても行く宛が無いわ」










だって貴方が殺してしまったんですもの。













紅を塗られた唇から紡がれたのは真実?








一瞬、ターゲットを間違えたかと思った。


けど、渡された写真は確かにこの男だった筈だ。







では、この男は自分の娘さえ売ろうとしていたのだろうか。







 
 
……なんだろう



こんな気持ちは初めてだ。




この男が憎い。
もう殺してしまったこの男が憎い。






こんな気持ちは初めて。
こんなの知らない。













そこで目が覚めた。


そこからどうしたんだっけ?




ただ覚えているのは

あの子の人形のような眼差しと
淡々とした口調。








嗚呼、あれはなんだったのだろう?









彼は気付いていない。


(これが最初で最後の一目惚れ)
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