ボカロ 短編

□傍に
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風邪をひいた。



私ではなく、ミクが。







「ゴホッ…」


辛そうに咳をするミクは、とてもしんどそうで。


ボーカロイドでも風邪ってひくんだね。





「ミク、水飲める?」


小さく頷く。

ミクの頭を少し高くして、そっと口にコップをつける。


ゆっくり流し込むと、少しずつ水を飲んでいく。


しばらくすると口を離し、再びベッドに沈む。





「ま、すた…お母さん、みたい…」



途切れ途切れに言葉を紡ぐ。



「じゃあミクは私の子供だね」



クスっと笑うと、ミクも笑みを返してくれた。





私の冷たい手を額に当てると、気持ち良さそうに目を細める。





駄目じゃない。
歌姫が風邪をひいてちゃ。



「してほしい事とかあったら何でも言ってね?」


私に出来るのは看病しかない。
 
苦しみを代わってあげる事も出来ない。






「ミク、食欲ある?」


お粥を作ってあげよう。
私は立ち上がる。







不意に、服の袖が引っ張られる感覚。




「…ミク?」



彼女を見ると、力無く私の服を掴んでいた。




「どうしたの?」

「ますたぁ…どこ、行くの?」

「台所行くだけだよ?」





「どこに、も…行か、ない…で……ここ、居て…」





潤んだ瞳で見つめるミクは、とても寂しそうな顔をしていた。








「…どこにも行かないよ」



ずっとここにいるから。





(君の傍でずっと、手を繋いでるよ)

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