その他 短編

□流れる旅路の真ん中
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それは、流浪の旅を続けて、幾年月が経った頃。








「金目の物を置いて去れ」


拙者に小刀をつき付けてそう凄むのは、綺麗な娘であった。

戦争が終わり、廃刀令が出たこの御時世に、まだ十代半ば程の娘が何故小刀などを持っているのでござろう。



「生憎、そんなものは持ち合わてござらんよ」



何故こんな子供が追いはぎをしているのかは疑問だが、拙者にも出せるだけの金はない。
娘には悪いが、拙者にもどうしようもない。



「その腰にある刀を出せ」

「これは金にはならんよ」


これは確かに刀であるが、これは売れない。


「…何故だ」

「普通の刀ではないからでござる」


おかしな事を言う男、と思われたでござろう。
だが事実。


「どうして?見せてよ」

「ここではまずい。場所を変えよう」


こんな道の真ん中で刀を抜くのは流石に憚られる。
 





場所を森に移す。


「早く見せて」

「そう急ぐな」


こんなところまで無用心について来て、襲われるなどの心配はないのでござろうか。
もちろん、拙者にその気は一切無いが。
無用心にも程がある。



「見るでござる」


そう言って、逆刃刀を鞘から出す。


「…何、それ」

「逆刃刀でござるよ」


人を斬れない刀。
誰が好き好んで買い取るか。


「変わった刀ね…」

「金にならない理由、分かったでござろう?」

「ええ、分かったわ」



刀を鞘に納めると、「でも」と聞こえてきた。



「何でそんな刀を持っているの?」

「拙者は、何故お主のような娘が追いはぎなどしているのかが不思議でござるよ」



拙者の言葉に、娘が怯んだ。


 
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