ボカロ 短編

□包帯の下の赤
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「嫌だ…行っちゃやだ、ますた…」

「帯人、痛い…」


掴む力が強くなっていく。
爪が立ってるよ、帯人。


「……痛っ」


皮が破ける嫌な音が鳴り、帯人の爪が肉に到達する。

血が流れた。


「帯人、ねぇ痛いよ。離して」

「嫌だ…捕まえてないとますた、どっか行っちゃう…」


目が据わっている。
これはもう、言い聞かせるような話し方では駄目だろう。


「帯人」

「嫌…嫌だ…」

「帯人!」


悪いとは思ったが、少し大きな声を出させてもらう。
案の定、帯人はビクッとして力が緩む。
その隙に私は帯人の手を外させ、代わりに私の血が滴る帯人の手を握る。


「帯人、落ち着いて」

「ごめ…なさい、ますた…っ」


顔は泣きそうに歪んでて。
綺麗な紫の瞳は不安を湛えていた。



「どうしたの、帯人。」


私はもう一度聞く。
今度は答えてくれると思ったから。


「マスター…離れちゃ嫌だ……何もいらないから、ここに居て…」
 


嗚呼、なるほど。
握った手が震えているのはその為か。

貴方は今、私と離れる余裕すら無い。そういう事ね。



「マスター…どこにも、行かないで」

「どこにも行かないよ。帯人」


そうか。
そういう事。

ならば私が今、この手を振り払って離れてはいけない。
あまりにも残酷すぎる選択肢は帯人にも私にも、選ぶ事はできない。



「行かないから…そんな顔しないで」


薬を飲ませないのは少々抵抗はあるが。
酷くなったら私の責任だ。
その時は傍に居てやろう。帯人が不安を感じない程に。



「ごめんね、帯人。もう一人にしないから」

「ます…た」



精一杯抱きしめてやる。
そうすれば帯人も抱き返してくれて。




「俺…マスターが居てくれるなら、それでいい…」



帯人の震えは止まった。

キスでもしてやればいいのだけれど、それは帯人が嫌がるだろう。
キスでもして帯人の風邪が私にうつったら、帯人はきっと罪悪感で血を流してしまう。



ごめんね。

だからその代わり、風邪が治ったらいっぱいキスしよう。


 
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