その他 短編
□相互記念
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「濡れるぞ」
「もう濡れてる」
「これからどうすんだ?」
「ここにいる」
「濡れるぞ」
「もう遅い」
傘を私に差し出す。
「こんなに濡れてるからいらない」
今更さしても、どうせ意味などない。
それに、男が濡れてしまう。
「いいから貰っとけ」
そう言って、私に傘を押し付ける。
受け取るまで帰らないつもりだコイツ。
私は渋々傘を受け取る。
「じゃあな」
背を向け、去っていく男。
雨に打たれる後ろ姿は何も物語ってなどいない。
それがなんだか、酷く優しく見えて。
(後日見かけた貴方に、なんて声をかけよう?)