その他 短編
□相互記念
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「お嬢ちゃん。こんな天気の日に傘もささないで、何やってんだ?」
白髪の侍に会ったのは、雨の日だった。
私は所謂、反抗期で。
親に逆らってはよく家を飛び出していた。
この日も親と喧嘩して。
いや、私が一方的にイラついてるだけか…。
とにかく、家を飛び出した。
天気なんて気にせず。
案の定、外は土砂降りで。
衝動的に家を出た私は傘なんて持ってきてる筈もなく。
服のまま風呂に入ったのかと思うくらいに濡れてしまった。
家を出てからそんなに時間は経ってないと思う。
だが、降り続ける雨が、確実に私の体温と体力を奪っていった。
「お嬢ちゃん。こんな天気の日に傘もささないで、何やってんだ?」
そんな私に話しかけてきたのは、名も知らない白髪の侍。
さり気なく私の方に傾けてくれる傘は、私を打ち付けていた雨を遮ってくれた。
嗚呼、なんて優しい空間なの。
「貴方こそ…何してるの?」
「俺?俺は仕事帰りだ」
今日は珍しく仕事があってな。
そう言って笑う男。
何の仕事をしてるんだろう?
「で、お嬢ちゃんは?」
「…家飛び出してきた」
そっか。
男はそう言うだけで。
普通の大人なら、「早く家に帰りなさい」とか「お母さんが心配してるよ」とか言って諭すのに、この男は何もしない。
変な大人だ。