駄文2

□春嵐
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春嵐



ひらひら、ひらひらと

躍り、舞う花びら

満開だなぁ、と呟いて目線を薄桃色の景色に投げ掛ける

大きな木の幹の下、
寝転んだオイラに、雨の様に空から降る花びら


「あんたは行かないの?」

ぽかぽかと暖かな陽気、柔らかな風に身をまかせ、
のんびりしていると、
隣からアンナの声

「いやぁ、オイラはもう少しこのまったり感を堪能しとるよ」

「そう」


自分から聞いてきた割にあっさりとした反応だが、それがアンナというものだ


とくに遊具があるわけでもない、広々とした野原には春の季節らしく桜が並んで咲き誇っている


花と日差しの匂い
空の青に映える桜色

遠くからはまん太やホロホロ達の楽しげなはしゃぎ声が聞こえてくる


「ホント、いい天気だなぁ。このまま寝たら気持ち良さそうだ」

シートの上でごろり、と寝返りを打ち
読書中のアンナに視線を移す

「来てよかったな、花見」

「…そうね」

パタン、と一度本を閉じ頭上の桜を見上げるアンナの横顔からは機嫌の良さが伺える

いや、こんな朗らかな場面で不機嫌になれという方が無理だろう


ゆっくりとした時間が過ぎる中、
ザァ、と強い風が一陣、アンナの髪とバンダナを揺らしてゆく


流れる花びらが、アンナの華奢な肩に、細い髪に、重なる

共に吹くバンダナの紅の上に一瞬映えたそれは、またすぐ風に乗り、見失う

景色に、溶けていってしまう


「…何?」


気付けばアンナを、後ろから抱きしめていた

アンナは抵抗するでもなく、ただオイラの様子を伺っていた


「…いや…、なんか、アンナが桜と一緒に風に連れてかれちまいそうな、気がして」

「桜?」

「風に吹かれて…一緒に溶けていきそうで、さ」


自分でもよくわからない

ただ、アンナがひどく儚いものに見えて、消えてしまいそうで、花びらごと掴もうとしていた

「バカね」


自分の行動に混乱していると、
そっ、とアンナはオイラの腕に手を添えた

「アタシがアンタ残してどこに行くっていうのよ」


凛とした声は、しかしどこかいつもより優しげに聞こえた


「アンナ…」

「そんなに不安なら、しっかり離さない事ね」


「…そうだな、そうする」


また来よう、と約束して、唇を重ねる

仄かに染まる頬は今日の陽気のせいにして―…


感じる体温は、春の暖かさに似ていた


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