書物

□マゾヒストの犯行
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「…そこで何してるんですか」

「綾部を待ってるの」

「はぁ…何故またそんな所で」

「いやだって入るのが見えたから」

「…ここ男風呂です」

「、ねー」

今気付いたような感心したような相槌を打ち先輩は立ち上がった

「綾部が男風呂にはいっていったもんだからびっくりしたの、そしたらお話したくなったの」

「わけわかりません」

「ほら、だって綾部女の子にしか見えないんだもの、おなごは男風呂なんかには入らないわけでさあ…」

この人は、いつも僕を女の子よばわりする

他の奴に言われる分にはなんてことないのだが
この人に言われると少々頭に来る
なぜだとかそういうことは考えたことがないけれどきっと、僕はこの人に女の子として見てほしくないのだろう
その答えは見え透いたものなのだがこれまた何故か気付かない振りりをしている自分がいた

「御託はいいですから、何も用はないんですね」

そういくらか低くはっきりした声で言い放つと風呂場の戸に背を持たせた先輩に背を向ける

そしてそのまま――歩きだした。

するとどうだろう、もうそろそろ聞こえるであろう先輩の制止の声が無い


それがまた頭に来てぐるんと視線を体ごと後ろに向ける

そこに見えたのは歯を出して笑っている先輩の顔

「…ハメましたね」

「だって綾部なら振り返るとおもったんだもん」

「なぜです?
もしかしたらそのまま部屋に戻ったかもしれないじゃないですか」

「そんときはそんとき、私も部屋に帰るよ」

不毛な、と言おうとしたとき先輩の細くも日頃の鍛練からか傷だらけの指が唇に触れる

「そんなにぴりぴりしないで、」

「誰のせいですか」

「私」

「わかってるなら、」

「嬉しいの」

「…?」

唐突な言葉の真意が全くと言っていいほどわからなかったのでそのまま次の言葉を待つことにした

「私が"女の子"って単語を発する度に綾部の眉毛が動くの」

そう言ってけらけらと笑い出した先輩


「綾部が好きなの」

その調子のまま口をついて出た言葉にポカンと口が塞がらない

そんな僕を見て尚もけらけらと笑い続ける先輩
その笑い方が異常に頭に来て
乱暴に先輩のくちびるを奪い、そのまま先輩の少し後ろにある戸に押し付けた

ながいながい接吻
自分的にはまだいけたのだが先輩がもうダメそうだったのでやめてあげた

「っ…、わたし 綾部怒らせるの好きみたい」

「…マゾですか」

「マゾ…そうね、そんな感じ」

「じゃあ僕はサドなんですか」

「それは違うんじゃないかなー、だってかわいいし」

「そういうことは関係ないと思うんですが」

「ばれたかー」

まだけらけらと笑っている先輩

そんな先輩が愛おしく見えていつの間にか自分も釣られて笑っていた


「それで、」

「はい?」

「綾部は私のこと好きなの?」


急に声が小さくなった先輩があまりにもかわいくて、僕はまた――今度はやさしく――接吻を施した





おわり
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