D夢

□Taboo cross.00
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「……本当に、いいのか…?」

「はい」

白い服に身を包んだ男は、自分とは正反対の色に身を包んだ少女へと尋ねた。

少女はそんな男に、短く返事を返す。

男の表情は、よりいっそう暗さを増した。

自分は、こんなことなんてしたくない。

だが、これをする事を少女は望んだ。

男の気分は、更に重いものへと変化していく。

「…早く、お願いします」

少女はすっ、と包帯に包まれた細い右腕を男に差し出した。

まだ幼い、白く小さな掌。

男は、眉間にシワを寄せた。

まるで、結果は分かっている、とでも言うかのように。

どうせ、『皆』同じなのだと、その目は語っている。

所詮はただの人間。

『神』に選ばれなかったものが、無理矢理『力』を手に入れようとすることは罪なのだ。

そして、必ず『罰』は降される。

だが、この少女はそれを今から試そうとしている。

まだ、10歳にも満たない少女がだ。

並の覚悟では、到底できるものではないはず。

現に今。

少女の瞳はこれから起こるであろう出来事への不安で揺らめいていた。

だが、そこには後悔の色など、微塵も浮かびはしていない。

男は固唾を呑んだ。

この子なら、と。

根拠のない期待が胸を支配した。

例えそれが、愚かな、『神』を冒涜する行為だとしても。

男は、少女の腕を取る。

少女の腕は、震えていた。

否、震えていたのは、男の手かもしれない。

期待と不安と緊張と恐怖。

様々な感情が渦巻く。

少女の表情は変わらない。

覚悟はできているようだった。

ただ、男が割り切れていないだけ。

「――私は、…何も出来ません」

震える男の手を握り返し、少女は呟くように口を開いた。

「私は、無力で非力なただの子供…本当は守りたいのに、守られてばかりの小さな人間です」

少女の肩が、微かに震えた。

俯いた顔。

男からは、表情は伺えなかった。

「…どんな方法でもいい…『力』が、必要なんです」

静かに、だがとても力強く、少女は思いを吐露した。

非力な自分を責めて。

無力な自分を怨んで。

守りたいのに、守れないもどかしさを吐き出した。

「『力』が、欲しいんです」

震える声を絞り出す。

「……お願い、します…」

消え入りそうな声、だけどそれは、とても重たい響きを持っていた。

男は、先程までの自分を恥じた。

覚悟が足りなかったことを少女に諭され、気付かされた。

男は、頷く。

そして、腕に巻かれた包帯を外した。

少女は、ゆっくりと瞳を閉じる。

閉じきる直前に見えたのは。

望んだ『力』の、輝きだった―――…

















(どうか、どうか)

(次に目を開くときには)
(望んだモノが『ソコ』にありますように――――…)















Prologue end.

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