副管理人の小説

□全てヒロさん専用
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「のわき」
 ちいさく、本当に小さく、テレビの方を向いたまま、俺にだけ聞こえるくらいの声量で囁いた。
「なんです?ヒロさん」
すると、台所で食器を洗っている野分が振り返った。なんでだ、あんだけ小さくいったのに。
こいつの耳はいったいどうなっているんだ。
「あれ、ヒロさん?呼びましたよね、俺のこと」
「あ、ああ。悪い、なんでもねえ」
「そうですか?」
そう言って、少し首を傾げながらも、すぐに皿洗いを再開した。
「お前、耳いいな」
「え、普通ですよ?」
「いや、だって俺いますっげぇ小さい声で言ったんだぞ?なんでそんなとこで聞こえてんだ」
言い返すと、野分はまたこっちを向いて、満面の笑みで、
「ヒロさんの声だからですよ。ヒロさんの声ならどんなに小さくったって聞こえます。俺の五感のよさは、全部ヒロさん専用ですよ」
と宣った。
俺は近くにあったクッションを思い切り投げ付けることで、恥ずかしさと、すぐに赤くなりそうな顔とをごまかした。
(なんでそんな台詞がさらっと吐けるんだ!)
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