歪蒐し

□プロローグ
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ぼんやりと目を開けた。
体がふわふわと浮いているような感覚に、私は少しの懐かしさを感じる。
ここはどこだっけ。


「ようやくお目覚め?」


聞き覚えのある声に私は体を起こした。
と言ってもどこが上でどこが下なのかわからない空間だが。
私の距離を開けた先には、私の容姿にそっくりな少女。
その姿を見てようやく、またダメだったんだと嘆く。
この世界に来たのはもう何度目か。
“私”はクスリと私と同じ声で笑みを漏らす。


「今回の世界も、ダメだったみたいね?」


「…えぇ」


私を嘲笑う“私”に私は俯く。
何度も同じことの繰り返しで私のことを滑稽にでも思っているのか“私”の笑い声は止まない。


「次回の世界、何か違うかもね」


「──え?」


パッと顔を上げると、さっきまで笑っていたとは思えないほどに無表情な“私”に私は黙り込んだ。
何故そう思えるのか。
数々の世界を越えてきた私にわからないことを“私”は感じ取っているのかもしれない。
ぐっと息も言葉も呑み込んで“私”の次の言葉を待つ。


「あなたが何を思ったのかは知らないけれど、そのおかげなのかそのせいなのか…」


「ちょっと待って。私には何のことだかさっぱり…」


意味も訳もわからない私は“私”に問い掛けようとするも、その前に“私”は笑みをまた漏らす。
くすくすという笑い声が私の聴覚を侵した。


「あら、気付いてなかったの?私はてっきり気付いているのかと」


「だから、何のことかわらないって言って──」

「あなたの後ろ」


私の言葉を遮るように重なる“私”の言葉。
固まってしまった私に「自覚なかったのね」と口許を歪める“私”に私はかすかに感じた。
言われてみなければわからないほどわずかに感じる、何かの気配。

後ろに、何かいる。

冷や汗が頬を伝う。
“私”が挑発的に「確認してみたら?」と言った。
そうだ、確認しなくちゃ。
後ろに何があるか、確認しなくちゃ。
拳を握り、覚悟を決めた私は思いきり後ろを振り向く。




──何も、ない?




そんなはずはない。
確かに感じたのだ、私を全てを見るような気持ちの悪い視線と、寒気がするほどの気配を。
その、はずなのに。


「がっかりした?びっくりした?あなたにとって良い刺激じゃない」


“私”の言葉にがっかりしたのか安心したのか、よくわからない感情に支配されたまま。
安心しきった様子で“私”の方へ向き直ろうと身を翻した。



そこにいる。
私のすぐ目の前。
吐息がかかるほど、すぐ近く。
私はまた、気付けずにいたのだ。



あっははははははは!
ははははは、あははははははっ!
あはっ、ははは!
ははははあははははははははははははは…!!



それきり。
気配は消えた。
私はよくわからないままに膝を付く。


「そろそろ時間じゃない?きっと次回は、スパイスの効いた世界になるわね。くすくす…」


“私”の声が遠ざかっていくにつれて、視界も黒く染まっていく。
確かに、そろそろ時間なのかもしれない。
次の世界へと、行く時間。


いつものように、どこか懐かしさを感じながら。
白い光に包まれて、私は誘われるように目を閉じた。




To be continued

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