籠球裏の書

□第3Q
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「ここが…霧崎第一高校…」























〜第3Q〜























部活も終わり、部員達と別れを告げて早急にやってきた場所―霧崎第一高校。


ここに彼女、スズの幼馴染みである花宮真がいるというのだ。

連絡も何の便りも無かった彼に遂に会えるとなると、無意識に足がすくんだ。

花宮とは中学で一度試合会場で偶々出会しそれっきり。


「どうしよう…やっぱりこのまま帰ろうかな…いや、そんなことしたらせっかく来たのに、何より電車賃が勿体無いし…。それか、ここ通る子に、『花宮真くん居ますか?』って聞いたら良いのかな……」

校門前でウロウロしながら入ろうか入らないか躊躇うスズ。


「どうしよう…今会っても確実にテンパって私、何言い出すか分かんないなァ…。」

冷静に考え、今どうするべきかを考える。




すると遠くの方から男子の声が聞こえた。





?「なー、今日帰りにゲーセン寄ってこーぜ。なんか新しいゲーム導入されたってさー。」

?「え、マジかよ。あー…でも俺今月ピンチでヤベェんだけど…。」


?「それよりさァ、腹減ったからマジバ行ってからで良いだろ?」


?「お前今日寝てたクセに腹減ったとか何様だテメェ…」


?「それより花宮、今度の試合の事だが…」




「…花宮…?まこっちゃん!?」


陰に隠れていたスズは花宮の名前を聞いて勢いよく飛び出した。






「あ…あ、まこ…ちゃん……。」



彼女の数メートル先には自分のよく知る顔、花宮真の姿があった。

彼の後ろには同じ部員仲間であろう四人が不思議そうにスズを見つめていた。



?「あり、あの制服って確か誠凛じゃね。」


?「お前よく分かったなァ。」

?「ザキとは頭のデキが違ェの(笑)」

ザ「はああ"!?ブッ飛ばすぞ原ァ!」


ザキと呼ばれた目付きの悪い男子が、原と呼んだ風船ガムを膨らます男の胸ぐらを掴んだ。


?「やめろってお前ら、女子の前だぞ。」


?「そう言う瀬戸も、眠いからって俺に凭れるな。」

瀬「固いこと言うなって古橋、俺の仲だろ。」

古「だが断る。」


瀬戸と呼ばれた額にホクロのある男子が、レイプ目の男子にもたれ掛かりながら不服そうにした。



後ろがワチャワチャしてる仲、花宮だけは静かにスズを見ていた。

彼女もまた、こんな季節なのに額に汗を浮かべながら彼を凝視する。


暫く見つめたあと、最初に口を開いたのは花宮だった。




花「ふは…誰かと思ったら誠凛の木吉スズじゃねぇか。」


「……え…」


ザ「木吉って…まさか」


スズの名前を聞いて後ろの四人が僅かに反応した。


花「どうしたのかな?もしかして霧崎第一(うち)を偵察しに来た?それとも……










久々に会うオトモダチでも待ってるのかなァ?



「…な、なにそれまこっちゃん…止めてよ、そんな他人行儀みたいな…っ」


原「花宮知り合い?」


花「さァな……ただの昔の馴染みだ。」


そういって花宮は歩みを進めた。


「…あ、あのねまこっちゃん、私、まこっちゃんに言わないといけない事があるの…っせ、誠凛バスケ部の、マネージャーになったから…今度の試合、また会うけど…」

一歩一歩近付いてくる花宮に何故か無意識に震えが止まらず、額からも汗が垂れる。



そして彼女の横を通ろうとしたとき、歩みがピタリと止まった。



花「へェ、そんな事わざわざ報告するために此処まで来たんだな。……それは褒めてやるよ。」


「…っ!!」


耳元で花宮の声がざわざわと入り、不意に背筋が震えた。




花「もう知ってんだろ?俺が兄貴の膝ぶっ壊したって…

「…ッそんな、やっぱりまこっちゃんが…」

花「けどまァ…アイツもイケないよな、妹にコソコソ大事なこと隠して。それで良い兄貴気取ってるつもりが余計に気持ち悪いんだよ。」


言葉を吐き捨てる花宮に何も返す言葉が浮かばない。


花「まぁ精々もがけよ…どっちみちお前らは今度の試合、勝手に負けるんだからな。」


スッと彼女を横切りそのまま前に歩いていく。

他の四人もスズを気にしつつ花宮の後を追う。


「勝手に負ける…?まさか…まこっちゃん、お兄ちゃん達にラフプレーをする気じゃ…!!!」

スズは急いで花宮を抜かして前に出て、彼の肩をガシッと掴んだ。


「まこっちゃん、どうしちゃったの…?昔は、こんな事する子じゃ無かったよ…!」


原「わぁー…」


「おねがい、だから…今度の試合、ラフプレーだけはしないで…ッおねがい、します…」


涙ぐみながら花宮に訴えかけるように呟き、脚の力が無くなりズルズルとしゃがみこむ。


花「…これが俺だ。………お前の知ってる花宮真は…もう居ねぇよ。


スズを避けて、再び歩き出した花宮。

そのセリフをスズに吐き捨て、その場から去って行った。



「……まこっちゃん…うっ、うぅッ…まこっちゃ、う…


残されたスズは、自分の肩を抱き寄せて震わせながら静かに泣いた。














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