大空は悪夢の海に堕ちるか?

□第3夢 起きてしまったは裏切
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椎葉の包帯は数を増し、目に見えて痛々しい様相を呈してきた頃だった。



それは、丁度骸と雲雀、クローム達が打ち解け始め、雲雀が珍しく他人と群れるだけであった筈のティータイムを楽しみ始めた頃で。


皮肉にも、良いことと悪いことは完全に重なったのだった。







その日は、なかなか椎葉がやってこなかった。始業のチャイムがなっても、だ。



「あー、今日は椎葉は遅刻だそうだ。なんでも昨日の夕方、階段から落ちて怪我をしたらしい。病院に行ってからこちらへ来るとの事だ」


担任は、言うだけ告げるとそのまま教室を出ていく。すぐに、教室中が騒がしくなった。笹川京子と並んで、クラスの、いや学校のアイドルだった椎葉がそんなことになったのだ、当然と言えば当然か。


その中で、獄寺は1人思い当たる。


(……マリアさんは、昨日の放課後10代目にお呼ばれになった、とおっしゃっていた。そして、同じ昨日の夕方に怪我をした。……これは偶然、なのか?)


同じ事を聞いていた山本もまた、同じ疑問を抱いたようで。






結局、その日は椎葉は学校に来なかった。













次の日。
椎葉は腕を包帯で吊った状態で現れた。

そして、そんな椎葉を呼び寄せたのは山本武。獄寺もまた、真剣な瞳をしたまま待っている。


「おはよう、武。隼人も。そんな怖い顔して、どうしたの?」


「真剣に答えてくれ。……昨日、ツナに何かされたか?」


直球と言えばあまりにも直球過ぎる言葉に、周りが聞き耳をたてる。

「え……別に何も。……ただ、ちょっとしたことで喧嘩になってしまって。そのまま喧嘩別れしようとした時に、綱吉の腕が当たってしまったの。それで、バランス崩した私が階段踏み外して落ちちゃって。それだけよ」


その言い方は、綱吉を庇おうとしているようにも、自分を優しい人間に見せようとしているようにも感じる。

獄寺が質問を重ねた。

「喧嘩、っすか?一体どんな?」

そう問われ、椎葉は周りに聞こえないよう声を潜め。


「……あの、ね。護衛なんて必要無い、って言われちゃった」

「なんでだよ?」

「その……私は、弱くて足手まといだからって。事実なんだけどね。
それと、あの、……今まで守護者は自分だけのものだったのに、なんで関係ないお前がたいして一緒にいたわけでもないくせに割って入ってくるんだ、って」




「10代目がそんなことを!?」


「ツナのやつ……!じゃあ、ひょっとして今までの怪我も全部ツナが?」


半信半疑な獄寺にたいし、山本はわりとあっさりと椎葉を信じた。


「……綱吉は悪くないの。ホントよ?ホントに、悪くないの」


どこか焦ったように、椎葉が弁明するが、山本の目にはそれが脅されているようにしか見えない。


そして、ほかのクラスメート達の目にも。


その最悪なタイミングで綱吉が登校してきた。不幸な事に、骸もクロームも同じクラスではなく、綱吉を庇う人間は居なかった。


「おはよ獄寺くん、山本、真理亜ちゃん」


「……ツナ、どういう事だよ」

綱吉の挨拶に答える事なく、山本は低い声で問い詰める。



後ろにいた椎葉は、誰にも見られないように下を向き、歪んだ顔で嗤っていた。
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