「ナゼ泣イテイルノダ」
うずくまるわたしに低い声。
後ろから問われ、私は膝に顔を埋めたまま、呻くように言った
「忘れてしまったわ」
「忘レタ?」
流れる涙は鉄の味ににていて苦く、身体中をかけめぐる、赤き絵の具のような。
真っ白な肌のキャンバスには、痛々しい、傷跡たち。
「わたし、なぜ泣いているのかしら」
逆に、彼に問うた
困惑すればいい、と悪戯に問い掛けたそれに、彼は真剣に答えた
「愛シイカラダロウ」
「…え」
やっと振り向けば、そこには漆黒の闇をまとった死神のような男
大きすぎる体、そこにまとう深すぎる闇は、いっそわたしには眩しくさえ感じた
端正な顔は無表情で、光のともらない瞳でわたしを見つめていた
「愛シスギテ、シカシ、ソレヲ受ケ入レテモラエズニ」
まるで自分のことを話すかのような彼、
わたしは乾いた声を絞りだしながら、そうね、と呟き傷口に爪を立てた
「愛されたかった…」
こんなにもきれいなわたしの赤い絵の具
でも、この絵の具は愛を描いてはくれなかった
描くのは痛みと苦しみと、絶望だけ
「愛されたかった…だけなのに」
とたん、体に冷たいものが覆いかぶさる、見上げれば、漆黒の彼が、無表情の顔のままわたしに囁いた
「ナラバ我ガ愛シテヤロウ」
わたしは、目を細めて、赤い涙を一筋ながし、彼の首に手を回した
「冥界ヘョゥコソ…愛シイ花嫁ヨ…」
ただ愛されたくて
(愛しても愛されない、)
(似テイル我等、ダカラ惹カレタ)
。