愛でる虎 逃走編
□愛でる虎25
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「っ梵天丸様!!」
「……………」
「小十郎、落ち着きなさい!」
「梵天丸様、誰がこのような…!」
「……………」
「あなたが取り乱してどうするのです!」
「は、早く手当を!」
「……………」
「もうしました!だから少し落ち着きなさい……小十郎!!」
「っ……はい」
迂闊だった。
剣の稽古のため傍を離れている間の出来事だった。
なんの気まぐれであろうか…
普段寄り付きもしないこの離れに、義姫様がふらりとやってきたそうだ。
驚き、しかしその喜びを隠しながら義姫様に話しかける梵天丸様。
今日お勉強された事や剣の稽古の話、はたまた好き嫌いがまた一つ減った…など、他愛のないことを一生懸命に義姫様に話す梵天丸様。
しかし、義姫様はそのどれも聞いてはらっしゃらなかった…
「…だから、次にみつけたときは、この梵天丸がつかまえるってこじゅろーにやくs「のう、梵天………」………なんですか、母上?」
「やはり……お前は違う…」
「え………?」
「お前は、私の……この、義の子ではない」
「っ……!」
「お前は本当に醜い…」
「は…ははうえ…」
「母と呼ぶなっ!!」
「っ!?」
バシッ!!
「汚らわしい!!二度と、この義に向かってそのような呼び名を使うでない!!」
「ぅっ…はは…う、え…」
「ここへ来たのも無駄足であった!そろそろ小次郎が剣の稽古から帰ってくる頃じゃ。私は戻る」
「………っ」
「菊、早く戻るぞ!」
「は、はい!」
義姫様の着物の袖に触ろうとした梵天丸様を、義姫様は力いっぱいはたいたそうだ。
その小さな体は、畳の上にたたきつけられ。
義姫様は梵天丸様を一度も見ることなく、部屋を出て行かれた。
俺が部屋に戻って見たのは…虚ろとした目で頬をひどく真っ赤に腫らせた梵天丸様と、その横で困った顔をしている喜多姉さんだった…