00

□君という理由
1ページ/2ページ


鳴りやまることをしらない銃声。
耳をつん裂くような断末魔。
もとのカタチを失ってしまった、温かかったもの。

もう、戻ることのないあの日々

この世界に、神なんか存在しないのかもしれない。

きっと、俺たちを見放して、遠い遠い、星の向こうへ――


「あ、刹那。おはよう。」

間延びした、緩んだその声。
玄関を出たすぐ隣から聞こえてくるそれは、この世界とは無縁なふうに聞こえた。
神に見放されたこの本当の世界を知らないような。

「……おはよう。」

短く挨拶を済ませる。
俺とこの青年……いや、沙慈は住む世界が違うような気がした。
俺がそいつの世界に足を踏み入れることは、決してあってはいけないこと。
逆もまたしかり。
すると沙慈は苦笑して、俺の方へと手を伸ばしてきた。
こいつに何かできるような奴ではないことはわかっていたが、その手を振り払おうと右手が勝手に動き出す。

「寝癖、ついてる。」

右手が温かいものに制された。
沙慈の右手が俺の髪を優しく撫でる。
温かいものが。
って、なんなんだこのシチュエーション。
望んだわけじゃない。
頼んだわけじゃない。
だけど、妙に緊張してしまう自分がいて。
それがなんだか恥ずかしい。

「それじゃあ、僕は学校だから」

そう言って、その右手でぽんと優しく俺の頭を叩いて、俺の目の前からいなくなろうとする。
あいつは知らない、仮面を被ったこの世界に
神なんかいないことを。

「沙慈は……」

ぴたりと沙慈の足が止まる。

「この世界に、神がいると思うか?」

まっすぐ向けられるその目は、血で汚れた世界を知らない、ただただ純粋な目で。
俺は、言って後悔した。
こいつは、この目は、本当の世界を知らないのだから。
暫く閉じたままだった沙慈の唇が動く。

「いてもいなくても、」


僕たちは出会ってたよ



そう言う沙慈の笑顔は純粋で、汚れてはいけないと思った。
本当の世界を知ったらいけないんだ、と。

仮面をつけることのないような、そんな世界を、
俺は、約束しよう。
武力介入というかたちで。
何と言われようと。

どうしても守らなければいけない理由が、できたのだから。



君という理由



→後書き
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ