日和部屋
□雨の日
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俳聖松尾芭蕉と弟子の曽良は旅の途中に雨に降られてしまい、仕方なく近くの町で宿を取った。
「ぁ!光った!ねぇ曽良くん今の見た?」
幼子のように雷を見てはしゃぐ芭蕉とは対称的に、曽良は外を眺めながら、何処か浮かない顔をしている。
「…曽良くん?」
心配した芭蕉が声を掛けると、曽良は弾かれたように顔を上げた。
「…すみません。考え事をしていました」
芭蕉を見つめる黒耀石の瞳は奈落を思わせるほどに暗い。
「君は…昔から雨が嫌いだったね」
「…」
曽良の近くに寄り、芭蕉は雨を眺めながら続けた。
「私は君の過去の事はよく知らないけど…辛かったんだね」
「…芭蕉さん」
何処か暗い曽良を元気づけようと、芭蕉は鞄に付いているマーフィーくんを手にとって戻ってきた。
「曽良くん、元気出して。ボクがついてるよ」
まるで幼子をあやすようにマーフィーを使って曽良に話かける。
だが、弟子の反応は冷たかった。
「…ひねり殺しますよ」
「ヒィイ!殺さんといて!」
不機嫌丸出しの曽良に凄味のある声で脅されて、芭蕉は思わず後ずさる。
「…弱ジジイが」
「ジジイって言うなーっ!」
呆れた曽良が悪態をつくと、少し離れた場所で芭蕉も言い返す。