日和部屋

□来世の約束
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悪夢を見た。
貴方が僕を置いて逝ってしまう夢。
座敷に横たわる貴方。その顔にかけられた白い布…。


「っ…!!」

其処で目が覚めて曽良は飛び起きた。背中にはじっとりと嫌な汗が伝う。

「ん…曽、良くん?」

隣で寝ていた芭蕉がゆっくりと起き上がる。

「曽良くん…何で泣いてるの?」
「ぇ…」

頬に手をやってみると、涙の跡。

「…芭蕉さん」 
「ん?」
「貴方が死ぬ時は…僕も連れていって下さい」
「何言ってるの曽良くん。私は簡単には死なないよ」

優しげに笑う芭蕉の肩を掴んだ曽良は俯いたまま切実な想いを叫ぶ。

「連れていってくれないなら…僕も後を追います!追わせてください!!」

芭蕉の肩を掴む手は震えていた。

「…そんな事をしたって、私の後を追うことは出来ないよ」
「…っ」

その言葉に依然俯いたまま一層涙を零す曽良の髪を撫でた芭蕉は続ける。

「自分で命を絶った人はね…天国に行けないって…聞いた事があるんだ…」
「…」
「曽良くんには…自分の人生を全うして欲しいんだよ…だから簡単に死ぬなんて言わないで?」
「貴方のいない世界で…どう生きろって言うんですか!?」

痛切な叫びにも芭蕉は表情を変えることなく、曽良を抱き締める。

「曽良くんが…人生を全うした時…きっと来世で出会えるよ…」
「じゃあ…その時はまた、僕を弟子にしてくれますか?」
「うん…でも私はその時何の師匠をしているか分からないよ?」
「それでも…いいです」

貴方といられるのなら…。

「よーし!それで決まり!何だか腹が減ったよ。少し早いけど飯持ってくるよ」

身体を離して曽良の涙を拭うと、芭蕉は部屋を出て階段を軽い足取りで下りていく。
取り残された曽良の目にはまた新たな涙が浮かぶ。
と、階下で芭蕉と宿の主人の声が聞こえた。

『芭蕉さん!危ないですってば!』
『大丈夫大丈夫!二人分の飯くらい簡単に…っぉわ…っと!』

どうやら二人分の食事を運ぶつもりらしい。
ガチャガチャと食器が揺れる音と、騒々しい声が聞こえる。

「全く…馬鹿ジジイが…」

苦笑した曽良は目尻に溜まった涙を拭うと、階段を下りて芭蕉を手伝いにいった。

貴方が死ぬなと言うのなら僕は生きて人生を全うしよう…。
そして…また来世で出会えることを…。
        完
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